ミラノの恋人

劇場公開日:

解説

企業の利潤追求の犠牲になってひき裂かれた痛ましい男女の愛を描く。製作はジャンニ・ヘクト・ルカリ、監督は「天使の詩」のルイジ・コメンチーニ、脚本はコメンチーニとウーゴ・ピッロの共同、撮影はルイジ・クヴェイレル、音楽はカルロ・ルスティケリが各々担当。出演はジュリアーノ・ジェンマ、ステファニア・サンドレッリ、ブリツィオ・モンティナーロ、レナート・スカルパ、チェージラ・アビアティなど。

1975年製作/イタリア
原題または英題:Delitto D'amore
配給:東宝東和
劇場公開日:1976年5月22日

ストーリー

ヌッロ(ジュリアーノ・ジェンマ)が、同じ工場に働くカルメラ(ステファニア・サンドレッリ)と知り合ったのはふとした偶然からだった。終業後、カルメラを見かけたヌッロは、彼女をアパートまで送っていった。カルメラはシチリア生まれで、父亡きあと出稼ぎにやってきたのだった。うんとお金をためて、太陽に輝く故郷シチリアに帰って土地の人と結婚しよう。それがカルメラの夢だった。ヌッロに送られて古びたアパートの前に立ちどまったカルメラは、突然脅えたようにあたりを見廻した。“シチリア人の女は、よそ者の男と絶対つき合ってはならない。もしそんな男が現れたら俺が殺してやる”。常にこういっている兄パスクワーレ(ブリツィオ・モンティナーロ)の言葉を、思い出したのだ。しかし、カルメラは今、その言葉を忘れるかのような、胸のときめきを覚えていた。彼女は、誠実でやさしいヌッロに既に恋していたのだ。ヌッロもまた初々しいカルメラを愛し始めていた。ヌッロは毎日、勤務が終るとオートバイでカルメラを待った。だが人眼を気にするカルメラは彼を避けた。カルメラの心には、ヌッロへの愛がつのればつのるほど、兄の言葉が強迫観念となってくるのだ。そうしたある日、カルメラは家族の留守を見計らい、ヌッロを家に呼んだ。兄に防げられ日曜日でさえ外出できないカルメラが恋人に逢うための、非常手段だった。二人は激しく抱き合い、唇を合わせた。その夜、ヌッロは家族にカルメラと結婚することを告げた。しかし翌日、カルメラの顔面に無惨にも痛々しいアザが残っていた。ヌッロとの関係を知ったパスクワーレに殴られたのだ。数日後、カルメラが勤務中、突然倒れた。ヌッロは不吉な予感に襲われた。もしやこの工場のガスが……。事実工場では病人があいついだ。彼の予感は的中した。カルメラの身を案じるヌッロを、なぜかカルメラが避ける日が続いた。そしてある日、一通の手紙がヌッロに届いた。「明日、故郷に帰ります カルメラ」。驚いたヌッロは駅に走った。ホームにカルメラが淋しげに列車を待っていた。その夜、二人はうらぶれた安ホテルのベットで無言で向き合った。ヌッロは自分たちの愛を許そうとせぬシチリア人のあまりの無知な観念を怒り、カルメラは彼を愛しながらも老いた父母、弟たち、そして兄さえも見棄てるわけにはいかない運命に涙した。その日以来、彼女の姿は工場から消えた。探し求めるヌッロの前に、パスクワーレが立ちはだかった。ヌッロは彼女に会わせてくれるよう懇願したが無駄だった。やっとのことで再会すると、カルメラの病状は進み、立ち上ることも出来ない状態でアパートの隅に横たわっていた。ヌッロは彼女をやさしく毛布に包むと自分の家に向かった。もちろん花嫁としてだ。その夜、駆けつけた市長の前で二人は結婚式を挙げた。式が終わると、やがてカルメラは永遠の眠りについた。--翌朝、工場の広場には労働者たちのシュプレヒコールが響いていた。「殺人者は誰だ!」。群集の中をヌッロは、会社の入口に向かった。黒いサングラスの社長が出てくると、ヌッロはピストルの引き金を引いた。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

受賞歴

詳細情報を表示

映画レビュー

3.0南北問題と公害を扱った真面目な社会派映画に主演するジュリアーノ・ジェンマの真摯な演技

2022年2月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

マカロニ・ウエスタンのアクションスター ジュリアーノ・ジェンマの珍しい社会派映画の一本。監督は「ブーベの恋人」「天使の詩」といった繊細で余情味豊かな佳作を手掛けたルイジ・コメンチーニ。共演が「イタリア式離婚狂騒曲」のステファニア・サンドレッリ。イタリアが抱える南北問題と北イタリアの工業地帯の公害を扱っている硬派な脚本であり、ジェンマとサンドレッリ共に極普通の恋人たちを地味ながら誠実に演じている。ただし、映画の最初と最後で描かれている物語の決着の仕方は、主人公ヌッロの一方的な怒りが、有毒ガスを放置した工場の社長に向けられる。愛する恋人を失った悲しさと改善を怠った会社組合への憤りは解るものの、映画としては共鳴しにくい。残された唯一の最終手段と思わせる、そこまでの主人公の葛藤が描き切れていないからだ。
興味深いのは、ヒロイン カルメラの兄パスクァーレの存在で、北イタリアに移住してきても故郷シチリアの風習や伝統を頑なに守り、妹の恋愛に関しても口出しをするところ。現代でも保守的な家族主義を貫くのかと、意外だった。兄パスクァーレがヌッロとの交際に反対する定石の展開。公害問題と南北問題が絡み合った悲恋ドラマとして創作されたストーリー。絶賛には至らないが、その目指しているものの真摯な映画制作は好感持てたし、ジェンマも好演している。

  1977年 1月22日  高田馬場パール座

コメントする (0件)
共感した! 1件)
Gustav