「見事な反戦映画がとどのつまりで戦意高揚映画に?」ミニヴァー夫人 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
見事な反戦映画がとどのつまりで戦意高揚映画に?
ワイラー監督作品も随時多く観て来たが、
この作品は監督前提では無く、「心の旅路」のグリア・ガースン目当ての鑑賞だった。
「心の旅路」では、相手の記憶が戻るまで
辛抱強く耐え待ち続ける女性像を見事に
演じたが、この作品では、階級社会の中でも
周りの人に公平に振る舞い
誰からも好かれる彼女が、
彼らの意識をも変えていく人間像を
「心の旅路」と同じ年に、これも見事に演じ、
こちらでアカデミー主演女優賞を受賞した。
中でも、家族を心配しつつ、
爆撃の不安にじっと耐える
防空壕の中での彼女の表情は印象的だ。
話は、長男が戦死する気配を漂わせながら
の展開だったので、
彼女の家族に不幸の結果が訪れないようにと
祈る気持ちで観ていたが、
よもや彼の新妻が戦争の犠牲者となった時は
さすがに涙がこぼれた。
自ら育てたバラに「ミニヴァー夫人」と命名
した駅長も亡くなった話など、
良識ある市井の人々の命を奪う戦争への
反発意識が、
エンディングの僅か数分前まで一貫して続く
優れた展開の作品だった。
しかし、戦時中の製作とは言え、
ラストの牧師の説教は如何なものだろうか。
彼の話も前段までは素晴らしい反戦姿勢を
示していた。それなのに後段の戦意高揚説教
はとても残念に思えた。
当時、監督はワイラー中佐という軍人だった
としても、話の骨子を徹底出来なかったのは
映画人として痛恨だったのでは無いだろうか。
この説教と、抜け落ちた教会の屋根越し
編隊飛行シーンだけの
作品全体のトーンからは
乖離したエンディングにより、
戦時中でのアカデミー作品賞をもたらした
かも知れないが、
同時に世界映画史上の名作の誉れを失った
ような印象は受けた。
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