「ナンバーワンからオンリーワン」ミザリー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ナンバーワンからオンリーワン
スティーヴン・キングの小説を映画化した1990年の作品。
個人的に、最も好きな…いや、一番好きなキング原作映画かもしれない。
だって、今でも覚えてる。初めて見た時のハラハラドキドキスリリング、チョー面白かった。時間が経つのすら忘れていたほど。
大ベストセラーの恋愛小説シリーズ『ミザリー』で有名な小説家、ポール。
次は自分が本当に書きたいものを書くべく、最新刊でミザリーを死なせ、書き上げたばかりの原稿を持って仕事場のロッジから出版社へ車を走らせる。
雪道、突然の吹雪。車はスリップする大事故。ポールも大怪我。
そこを“偶然”にも救い出してくれたのが、“偶々”近くに住む元看護師の中年女性、アニー。
さらに彼女は、“奇遇”にも『ミザリー』の熱狂的なファン。飼豚に“ミザリー”と名付けているほど。
憧れの作家に会えて感激、甲斐甲斐しく看病する。
が、最新刊でミザリーが死ぬと分かった途端…
名シーン、その1。
「よくもあたしのミザリーを殺したわね!!」
穏やかだったアニーが豹変、発狂。
ここに至るまでも、少々ウザく感じたり、癇癪持ちなど不穏/伏線みたいな描写はなされていたが、ここで第1発投下。
あまりにもキチ○イ過ぎてオーバーなブラックコメディ・キャラみたいにも見えるが、それがまたアニーの異常性を出している。
言うまでもなく、キャシー・ベイツの恐演。
序盤は穏やか、優しい女性。
突然の狂女に!
その間も“恐”と“柔”を見せつつ、パワハラ的な威圧感。でもその中に、愛くるしさや時折哀れみ。ちなみに、“ミザリー”の意味には“哀れ”や“悲観”などあるらしい。
そして、あのトラウマ級の怖さ…!
一本の作品でこんなにも変幻自在。そりゃあオスカーも納得。
本人は映画史に残る恐怖のヒロインを演じて、「楽しかった」なんていう余裕っぷり!
キャシー・ベイツの強烈インパクトばかり語られるが、ジェームズ・カーンも巧い。
カーンと言えば『ゴッドファーザー』などでタフで男臭いイメージ。
本作では追い詰められ、憔悴。それらを抑えた演技で。
当時、寝たきりで女性にやられるという役故、多くの男優に断られたそうだが、引き受けたカーンに感謝。
アニーは書き直しを要求。
死んだミザリーを生き返らせ、あたしだけのミザリーに。
何と言う要求…。
が、物語を完結させたのにアイデアなど出る訳ない。
この頃になると、ポールは体力や怪我も少し回復、車椅子で動くまでに。
相手の様子を見、いよいよ行動、脱出を窺う。
もう一度アニーに原稿用紙を買いに行かせ(癇癪起こしたけど)、その間に家の中を探索。電話を見つけるが、それは…
家の中あちこち鍵が。車椅子から下りないと入れない部屋も。
その時! 外でアニーの車が帰って来た音が!
思ってより早く帰って来た!
アニーが家の中に入って来るまでに、自分の部屋に戻れるか…!?
このシーンは初めて見た時、本当に心臓バクバク、目が釘付けになった。
監督のロブ・ライナーは『スタンド・バイ・ミー』が好評で、キング原作映画再び登板。
あちらは青春ストーリーであったが、こちらはサスペンス・スリラー。ライナーはその後、サスペンス・ドラマや社会派サスペンスはあるものの、サスペンス・スリラーは本作一本。なのに、同ジャンルの名演出家に思えるから不思議。
有名小説家行方不明は、ニュースに。
出版社エージェントから最後に消息を絶った田舎町の老保安官に連絡。のらりくらりと対応しつつ、捜索が始まる。
暇ボケしてるかと思われたこの老保安官のバスター、実はとっても頭が冴える!
僅かな手掛かりから足取りを探っていく。
リチャード・ファーンズワースが好助演。
保安官補兼奥さんとのやり取りがほんわか、ユーモラス。本作で唯一、心安まる。
アニーがポールを助けたのは、“偶然”“偶々”“奇遇”ではなかった。
ポールがロッジで小説を書くのを知っており、兼ねてからマーク、尾行。
アニー不在時の家の中探索は大胆に。
そして見てしまう、アニーの“思い出のアルバム”。その中身は、衝撃的なもの…!
ポールは反撃に備えるが…
アニーの方が一枚上手だった。
翌朝麻酔薬を打たれ、隠していたナイフも没収。
ポールが家の中を歩き回っている事を知ったアニー。
さあいよいよ、名シーン、その2。
ポールの治りかけの足を木ブロックで固定し、それをハンマーで叩き潰す!
ポールじゃないけど、見てるこちらも、うぎゃ~~~~~ッ!!
その直後、一言。
「愛してるわ、ポール」
鬼畜の所業!
観念したのか、ポールはアニーの為の『ミザリー』を書き続ける。
…が、実は諦めていなかった。
バスターも遂に確信に至り、アニーの家へ。
最終章の結末は…?
私、あなたのファンです。
エンターテイナーとしては嬉しい言葉。でも、
私はあなたのナンバーワンのファンよ。
…ん?
そして、それがいつしか、
私はあなたのオンリーワンのファンよ。
戦慄の狂信行為やストーカーを、第一級のエンターテイメント・スリラーとして描いた、言わずと知れた名作である。
余談
見ていつも思うが、事件後のバスターの奥さんの事を思うと…(T_T)