「人間の本質を見事に描き出した名作」マンディンゴ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
人間の本質を見事に描き出した名作
映画としての完成度が非常に高い作品だと思う。初公開から45年ぶりのデジタルリマスターとのことだが、古さをまったく感じさせない。人間の精神性はそう簡単には変わらないということだと思う。
登場人物は封建的な偏見と差別に満ちている。
・黒人には人権は認められず、白人に従順に従わねばならない。反抗する黒人は殺して構わない。
・黒人女はセックスが好きで14歳以上の処女はいない。
・白人女は結婚するまで処女でなければならない。白人女はセックスが好きではないから、子供を孕ませる以外のセックスは不要である。白人女と裸で抱き合うのは芳しくなく、服を着たままでよい。そもそも白人女には子供を産む以外の役割はない。
・白人の男にはすべての権利があり、黒人女は自由に抱いていい。
20年後には南北戦争が勃発する、黒人奴隷解放の気運が盛り上がりつつある時代の話である。古い気質の経営者である父マクスウェルは、上記のような偏見と差別を当然のこととして黒人に何の感情も抱かないが、息子ハモンドは黒人も人間であるという主張にやや心を動かされつつあり、父のように無慈悲な態度を取ることが出来ないでいる。しかし生まれついて持たされた偏見と差別はハモンドの情緒の底流にある。だから処女でなかった嫁ブランチが許せない。性欲の処理はもっぱらお気に入りの黒人女エレンで済ませる。
作品中にマンディンゴが何を意味するのかの説明はなかった気がする。兎に角、優秀な種馬という意味合いに受け取れた。ヘビー級世界チャンピオンのケン・ノートンはいかにも種馬に相応しい筋肉隆々の身体をしていた。そういえば映画「ロッキー」のロッキー・バルボアもリングアナウンサーに紹介されるのに「イタリアの種馬」と紹介されていた。種付けのために買われたマンディンゴのミードだが、嫁のブランチが生んだ子どもの色が黒かったことで半狂乱になったハモンドによって、悲惨な最期を遂げることになる。
情け容赦のない作品だが、人間が他者に対して偏見を持ち差別するという本質を持っていることを観客に突きつけるようだ。アメリカ人は開拓初期の残虐な精神性を心の奥底に持ち続けているのだと思う。本作品はそれを遠慮なしに暴いてしまったのだ。アメリカのインテリの中に本作品を全否定する人が多いことが、逆にその証左となっている。自分の心に秘めた差別や偏見を暴かれたくないという訳である。
3月末にニューヨークでアジア人の65歳のおばあちゃんを38歳の巨漢の黒人男性が殴打する映像がニュースとなった。アメリカは白人にも黒人にも差別意識と偏見があるのだ。本作品の舞台である180年前と少しも変わらない。人間は進歩しない生き物なのだ。人間の本質を見事に描き出した名作だと思う。