「知らず、救世主の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に救世主と為れるかを。 インフォームド・コンセントが徹底されていればこんなことには…。」マトリックス たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
知らず、救世主の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に救世主と為れるかを。 インフォームド・コンセントが徹底されていればこんなことには…。
仮想現実世界「マトリックス」を舞台に繰り広げられる人間と機械との戦いを描いたSFアクション『マトリックス』シリーズの第1作。
大手ソフトウェア企業に務めるプログラマー、トーマス・アンダーソン。彼には天才ハッカー「ネオ」という裏の顔があった。ある時、何者かからパソコンを通してメッセージを受け取ったネオは、それに従い「白ウサギ」を追いかけるのだが、それを境に彼の”日常”は終わりを告げる…。
主人公トーマス・アンダーソン/ネオを演じるのは『マイ・プライベート・アイダホ』『スピード』のキアヌ・リーヴス。
ネオを導く謎の男、モーフィアスを演じるのは『地獄の黙示録』『ボビー・フィッシャーを探して』のローレンス・フィッシュバーン。
👑受賞歴👑
第72回 アカデミー賞…音響賞/編集賞/視覚効果賞/音響編集賞!✨✨✨
第9回 MTVムービー・アワード…作品賞!
『トゥルーマン・ショー』(1998)、『ファイト・クラブ』(1999)、『アメリカン・ビューティー』(1999)など、ふやけた日常からの覚醒を促す自己啓発系映画の名作がポコポコと生まれていた世紀末。その中でも最大のヒット作といえばコレ!難解なストーリーと奇抜な革新的映像に世界中が驚き、その後数多のパロディやオマージュが作られるに至ったSF映画の金字塔である。
子供の頃は非常に知的で高尚な映画だと思っていたのだが、今改めて鑑賞してみてその感想は180°変わった。これめちゃくちゃボンクラ映画じゃん!!
カンフー、ガンアクション、旧約聖書、サングラスにロングコート、『攻殻機動隊』(1995)に『ターミネーター』(1984)に李小龍に…。中学生の大好物欲張りセットやんけこれぇッ!!
「スプーンは存在しない。在るのは自分自身だ」とか「己を考えるな、己を知れ」とか、なんとなく老荘思想っぽい哲学にコーティングされているから誤魔化されるけど、中身は超漫画っぽいというか、今流行りの異世界転生無双系そのもの。”赤い薬”とはオタクコンテンツの事だった…?
「バレットタイム」という『ジョジョ』っぽいスローモーション演出や、明らかにやり過ぎなワイヤーアクションなど、外連味のありすぎる映像表現は今見ても斬新。その後、本作のパスティーシュは山ほど生み出されたわけだが、やはり本物は一味違う。大真面目にバカをやる。これが1番大事なんだよねぇ。
カンフー・コリオグラファーに香港アクション界における本物中の本物、ユエン・ウーピンを配しているというのもニクい!ウォシャウスキーズ、分かってんな〜!✨本作がなければ『グリーン・デスティニー』(2000)も『キル・ビル』(2003-2004)もなかったかも知れないと思うと、その偉大さがよく分かる。
内容はカート・ヴォネガット・ジュニアの名作SF小説「タイタンの妖女」(1959)を彷彿とさせる。人間が高次元的存在により自由意志を奪われ、知らず知らずのうちに搾取されているという点でこの2作はよく似ていると思うのだが、「タイタンの妖女」が「わたしを利用してくれてありがとう。たとえ、わたしが利用されたがらなかったにしても」という諦念を打ち出しているのに対し、本作は「利用されてたまるか。たとえ現実がクソみたいな地獄でも」という徹底抗戦のスタンスを取っている。ここにおいてこの2作は大きく異なっている訳で、「タイタンの妖女」に少々居心地の悪さを感じた自分からしてみれば、本作のメッセージの方がより素直に受け取る事が出来たように思う。
リアルからリアリティが失われている。こういう感覚というのは大小の差こそあれ、誰しもが覚えていることなのではないか。そのことに対し疑問を持ち、真実を突き止めるために世界と戦え、という本作のメッセージは力強く、灰色の日常を生きる観客を鼓舞してくれるはずだ。
ビジュアル面は確かに素晴らしいし、救世主による勧善懲悪なストーリーも面白い。テーマやメッセージにも共感出来る。しかし、よくよく考えると気になる点が山ほど出てくる。
まずもって言いたいのは、モーフィアスお前インフォームド・コンセントはしっかりしろよっ!!∑(゚Д゚)
「赤い薬を飲めば真実を知ることが出来る…」とか言われりゃ、誰だって赤い方を飲む。誰だってそーする。おれもそーする。
んでいざ飲んだら、なんか訳わかんない真っ暗な世界で、サイバーパンクな人たちと一つ屋根の下で暮らさなきゃならない訳でしょ?食い物だっておかゆみたいな訳わかんないドロドロしかないし。そりゃあの鬼越トマホークみたいな人も裏切りたくなるわ。逆によく9年間我慢したよ。
そこはモーフィアスが「この赤い薬を飲むと、訳わかんない暗い世界で一生おかゆ食って生活することになるけどそれでも良い?」って聞かないと。そうすりゃあの惨劇も防ぐことが出来ただろうに…。
とまぁコレは半ば冗談なんだけど、マトリックス世界で警官とか軍隊をバンバン殺しまくるのはちょっと納得がいかない。
「彼らは救うべき対象だが、システムは敵だ」という、一理あるんだかないんだかよく分からない理屈で撃ち殺しまくるんだけど、マトリックスで死ぬと現実でも死ぬ訳でしょう?警官たちはもちろん何にも知らない普通の人たちなわけで、彼らからしてみれば、厨二病全開なファッションに身を包んだテロリストに襲撃されたということでしかない。
「大義の為には多少の犠牲はやむを得ん!」ということなのか?いやそれをヒーローがやっても良いのだろうか?飛び交う弾丸と飛び散る粉塵の気持ちよさで誤魔化されるけど、あの警察署襲撃シーンは割とアウトな気もする。
ネオとトリニティーのロマンスもなんだかなぁ…。
この2人ほとんど接点ないじゃん!会話なんてほとんどしていないのに、いつのまにかトリニティーはメロメロ。「私が愛した人が救世主。だからあなたは救世主」という、宗教にどっぷり浸かったメンヘラみたいな事を言い出す。恋に落ちるという予言をされていたのなら、最初はめちゃくちゃ反目し合う仲だったのだが、任務をこなすうちにだんだんとその距離が縮まって…みたいな過程が必要。そこをすっ飛ばしてるから、運命に反抗する物語なのに恋愛は運命的みたいな、変な捻れを起こしてしまっている。
美男美女のロマンスがアクション映画には必要だという不文律が透けて見えるこの2人の恋愛には、なんだか座りの悪さを覚えてしまった。
確かにしっかりと面白いのだが、ところどころ首を傾げたくなる描写が散見され、それがノイズになってしまった。人間たちの聖地が「ザイオン(Zion)」というのも、ちょっと今のご時世だとアウトだよね💦
まあでも、小難しい『コマンドー』(1985)だと思えばこの大雑把さも許せるというもの。何より、この世界観の素晴らしさに心の中の厨二病が大喜び♪社会現象になったのも頷ける、エポック・メイキングな作品であることは間違いなし!!
※Netflixにて、吹き替え版で鑑賞。…したのだが、声優がテレビで放送されていたのと違ーう!!
キアヌ・リーヴスが小山力也というのは予想外だったが、結構合ってる。問題はエージェント・スミス。この吹き替えも全然悪くないんだけど、やっぱりスミスといえば大塚芳忠さん一択。あの声での「ご機嫌ようアンダーソンくん!」が聞きたかったー😭
> 小難しいコマンドーだと思えば
いやあ、名言ですね。
そうなんですよ、名作に見えちゃうんですよね。そこがすごいんでしょうね。あ、俺は、好きです。たなかなかなかさんと同じスタンス。
心の底から楽しめて共感の嵐のレビューでしたー!朝から嬉しい。大真面目に馬鹿をやるのは大事!中学生的(誰もが外見とか背中そりとか真似してた?)!二人の恋愛はなんじゃ?などなど。朝から楽しくありがとうございます!