劇場公開日 1995年2月25日

「Syamu_gameとジム・キャリー」マスク 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5Syamu_gameとジム・キャリー

2022年9月24日
iPhoneアプリから投稿

Syamu_gameというYoutuberがいる。この人はそのあまりのつまらなさ、言動のちぐはぐさから主にインターネットの露悪界隈を中心にカルト的な人気を集めているのだが、彼が愛好してやまない映画の一つが本作だ。

実際、彼の所作に注目してみると、走り方だったり笑い方だったりにジム・キャリー的な誇張性が表れている。笑い方などは特にそうで、斜め上を向きながら「アッアッアッア」と断続的な発声を行うさまはもはやジム・キャリー本人であるとさえいえる。

ここからはSyamu_gameの動画を渉猟したうえでの私見なのだが、おそらく彼は軽度の知的障害を抱えている。彼は発語や行動原理に一貫性がなく、他者世界というものを基本的に理解できていない。視聴者に何か指摘された際に的外れな反論でさらなる批判を招くことも多々ある。

さて、我々は彼のもたらすこうした無意識のコメディを単に面白おかしく消費しているわけだが、それは彼の人生を取り巻く窮状がまったくの他人事だからに他ならない。

しかし当事者であったならどうか。少なくとも私は窓のない牢獄に閉じ込められたような絶望的な気分になると思う。もっと自由に動きたいのに、喋りたいのに常に何かが自分自身を阻害している感覚。これほどもどかしいことはない。

本作『マスク』はこのような状況のまさに対極にある。冴えないサラリーマンのジム・キャリーは、マスクを被れば無茶苦茶で自由闊達なカートゥーンキャラに変身できる。彼の身体はゴムのようにグニャグニャ曲がって銃弾を避け、その口から発せられる冗談は絶世の美女さえ瞬く間に虜にする。やろうと思えばなんだってできるし、なんだって叶う。要するに精神世界と物理世界が地続きに繋がっている。

Syamu_gameが『マスク』を愛好する理由はおそらくここにあると思う。思考が現象に変換される過程で何らかの邪魔が入ってしまう彼にとって、精神世界がシームレスに物理世界へと繋がっている『マスク』の世界観は大いなる憧憬の対象だ。

これは完全に私がSyamu_gameに慣れ親しんだうえで本作を見たせいなのだが、ジム・キャリーがマスクの力で徐々に人生が好転していくさまを興奮気味に見届けながらも、ままならぬ人生を送り続けるSyamu_gameのことが頭の片隅に思い浮かんでしまってなんとも言えない気持ちになった。

ただまあSyamu_game本人はそのようなペシミズムには陥っていないようなので安心だ。彼にとっての「マスク」がなんとなくそれとなく見つかりますように、と密かに願う次第だ。

因果