劇場公開日 1963年8月23日

「タルコフスキーの卓越した演出による、モノクロ映像の詩的映像美で綴られた戦争悲劇」僕の村は戦場だった Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0タルコフスキーの卓越した演出による、モノクロ映像の詩的映像美で綴られた戦争悲劇

2022年2月15日
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鑑賞方法:映画館、TV地上波

今年の二月テレビで見学した時は、それほど評価出来る作品ではない印象を持ったものの、今度の劇場鑑賞では何故か親近感を覚えた。それは第一に主人公イワン少年の余りにも過酷な境遇に同情してしまうからなのだが、タルコフスキー演出の詩的な表現によって、戦争の残酷さのリアリズムのその内にある人間の想いが素直に理解出来たからである。例えば若い中尉と看護師との男女間は、結ばれるようで結ばれない微妙な関係であるし、この恋愛模様と中尉とイワン少年の固い友情で結ばれた兵士同士の関係が対照的に描かれていた。それが白樺林の印象的な自然描写と相まって個性的な美しい映像詩の映画を形成している。描かれた戦争秘話の悲劇性は、その美しすぎる詩情ゆえに直接的ではない。この表現が、アンドレイ・タルコフスキーの個性なのだろう。
しかし、その微妙な人間模様の映像美に関係なく、このイワン少年の復讐に囚われたストーリー自体は絶望的に暗い。まだあどけない年齢にも係わらず過去の幸せな時を追想するものと現在の苦しい戦場の現実との対比が、より少年の悲劇を表現している。何より孤児の孤独から強がりを大人の前で貫く姿が、頑なで痛ましい。子供らしい純真無垢な優しい心を素直に表現出来ず、その汚れなさ故に敵に復讐心を抱く確固たる自意識が、勇敢なスパイ活動を全うしようとする。いつかは自立を成し遂げるべき人間の、それは他者を何らかの才能で圧倒せねばならない人生の道理を知ってしまったのが、この少年には早すぎたのである。戦争の悲劇が殺人行為による兵士の死のみならず、こんな罪のない子供までも侵食してしまうストーリーは、観ていてとても辛い。

やり切れないくらいの暗い戦争悲劇の物語を、タルコフスキー監督の詩的な映像美で完結した個性強固な映画作品。一方的な反戦姿勢がソビエト映画らしいが、それだけに留まらない卓越した映像美を持った佳作だった。

  1976年 12月11日  池袋文芸坐

十代の頃は映画好きが高じてオールナイトを何度か経験した。この時の同時上映は、「禁じられた遊び」「悲しみの青春」「キャバレー」の3作品。戦争を題材にした地味な映画ばかりだ。タルコフスキー監督作品は、この初期の作品と75年の「鏡」のみ。後期の代表作は、劇場鑑賞でないと作品と充分な対峙ができないと思う。とても気になる特別な作家ではあるが、機会がなく今日に至る。それでもこの「僕の村は戦場だった」と「鏡」共に忘れ難い映画ではある。

Gustav
マサシさんのコメント
2022年4月12日

文芸坐ですか。僕も文芸坐で、八十日間世界一周とダフ(?ヨットの話)を見て、世界2周しました。

この映画では、ナショナリズムの恐ろしさを僕は一番感じました。初めて見た時、恐怖でおののきました。

マサシ