「全く甘っちょろくない話」ボクサー(1997) talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
全く甘っちょろくない話
ダニエル・デイ=ルイス演じるダニーがボクサーであるのが楽しみで見始めた。シャドーボクシングも縄飛びもミット打ちも堂にいってかっこよかった(スタンドダブルかも知れなくても)。でもそんなこともラブストーリーも吹っ飛ぶほどの話だった。全く甘くない。IRAが絡む北アイルランド、ベルファストの映画にはいつも沢山の可愛い子ども達、男の子達が出てきてとても辛い。
ダニーは14年間刑務所にいたがそれはベルファストの一方のボス、ハリーの身代わりだ。決して口を割らず模範囚でありボクシングの練習もしていた。32歳で出所で刑期14年ということは18歳で捕まった。罪をなすりつけられたろうこと十分に納得できる年齢だ。ベルファストの抗争で死んだ男は10代前半から20代前半という若さに言葉を失う。エンドロールで流れる歌の歌詞「お母さん、お父さん、息子・・・」が胸に響いた。
14年間、親しかった大好きな人達の声を思い出し頭の中で会話していたがそれがだんだん消えてしまう。すると自分の声も雑音になり最後は沈黙だけが支えとなり心で話していた、例えば恋人だったマギーと。出所後、ボクシングの試合で肉体を打たれて初めて身体の感覚を取り戻した。そしてマギーそのものを求める気持ちが体と心に蘇った。このくだりを語るダニエル・デイ=ルイスの言葉が素晴らしかった。
悪いことをしていないのに逃げるのは嫌だ。ここは生まれ育った自分の街だ。ハリーと対立関係にある権力者の父親ジョー(かっこよかった)の娘のマギーも辛かった。北アイルランド問題はプロテスタントとカトリックの対立もあるだろうが、そもそも英国が諸悪の根源ではないか?
おまけ
ボクサー=マッチョではない!それを体現したダニエルが素敵だった🥊