「国家によるイノセンスの強奪」ペパーミント・キャンディー しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
国家によるイノセンスの強奪
この映画は、20年前の職場の仲間で集まったピクニックの場面からスタートする。これが1999年。
ここに現れた本作の主人公キム・ヨンホは、そこの場で鉄道に飛び込み自殺を図る。
そのとき、彼が「あの日に戻りたい」と叫ぶと場面は数日前まで戻る。本作は、そこから逆回しに時を進め、20年前の同じ場所のピクニックの場面までを辿る。
彼の人生はどこかでねじ曲がってしまった。
本当に愛し合った女性とは結ばれず、意に沿わぬ結婚を選び、結果、浮気をし、家庭を壊してしまう。仕事においては本来、好まないはずの警察の仕事を選び、若者を拷問し、辞め、会社を起こすが上手くいかない。
それは徴兵されていた間の特殊作戦で、同胞の高校生の女の子を誤って殺してしまった、ということから得た心の傷による。
映画の序盤では、この心の傷は明らかではない。しかし、彼には目に見える傷がある。片足が不自由なのがそれで、この足の傷もまた、同じ作戦中に受けたものだった。
つまり、可視化できない心の傷を、足が不自由であることをもって表現していて、実に巧みな脚本だと思った。
このように、彼が心に傷を負ったきっかけは、軍という国家の行動によるものである。
つまり、彼自身が為した選択によってではなく、韓国という国が辿った道によって、彼の人生は決定的にねじ曲げられてしまったのだ。
だから、最後のシークエンス、20年前のピクニックの場面では涙が止まらない。
このときのキム・ヨンホは、名もなき花を愛し、その花を愛する人に贈る青年だったのに。
国家によるイノセンス(純粋さ)の強奪。
戦争や全体主義が個人の生活を破壊する暴力性を、その悲劇性を、本作は、主人公の人生を巻き戻しながら、一歩一歩追い詰めるように描いていく。
凄まじい重さの傑作である。