「原作ファンなら一見の価値はある映画」ペット・セメタリー(1989) Vanillaさんの映画レビュー(感想・評価)
原作ファンなら一見の価値はある映画
原作小説を知らない人に映画単体でおすすめできるかと言われるとちょっと答えに窮する作品ではある。
全体的に尺不足感・説明不足感が否めず、原作の描写、特に肝である主人公の心情描写が大幅にカットされてしまっているせいで全編通して各登場人物の行動がやや唐突に感じられてしまい、少々感情移入や理解がしにくいという重大な欠点がある。
特に主人公の最後にとる行動はそうするに至るまでの動機というか感情のグラデーションがわかりにくく、人によっては「バカじゃないのか?」と感じてしまうかもしれない。
一方で光る部分も確かにある。
怪異(?)の気味悪さや恐怖演出等、ホラー映画としては十分鑑賞に耐え得る一定の完成度を有しているし、俳優のビジュアルも原作の登場人物の雰囲気をよく表していると思う。レイチェルのそこはかとないいいとこのお嬢さんっぽさやジャドの誠実で信頼できそうだが底知れない感じなどは2019年版よりこちらの方が個人的にはイメージに近かった。
何よりオープニングシーンとエンディングシーンが珠玉の出来。実に美しく陰鬱で、正直この2点だけで最低限合格点はあげてしまってもいいかなと思えるぐらい気に入っている。
決して制作班が原作を理解していないとか愛していないという訳ではない(むしろその逆)というのは随所から伝わってくる。(そもそも原作者が制作に関わっているし)
全体として、一つの映画としての完成度を期待しすぎると肩透かしを食らう可能性はあるが、原作小説の視覚的イメージの補完としては優れた作品であるように思う。
「人間の心」が重要なファクターになっている作品で心理描写がちょっと欠けているのは致命的な欠点だよな~とは思いつつ、あの原作の描写を尺に収めつつ映像化するのはまあ難しいよな…という思いもあり、ちょっと複雑な気持ちになる映画。
究極、原作小説は知っていることが前提で映画単体で見るものではないのかもしれない。