「愛故に人は愚かな過ちを繰り返す」ペット・セメタリー(1989) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
愛故に人は愚かな過ちを繰り返す
数ある作品の中でも、スティーヴン・キングが長らく出版を見合わせたという“禁断”小説の映画化。
勿論ホラーではあるが、それ以上に、愛するが故の哀しさ、残酷さ、愚かさこそ際立つ。
田舎町に越してきた医師とその家族。
家は大型トラックが行き交う道路沿いにあり、ある日、長女が大事にしていた飼い猫が轢死してしまう。
まだ“死”を理解出来ない娘にどう伝えていいべきか悩む父は、隣家の老人にある場所へ案内される。
家の近くに森の奥へ続く小道があり、その先に、“ペットの墓地”が。
さらにその先…。
ある部族の埋葬地。
そこに埋葬すると…
飼い猫が還ってきた。
しかしそれはもう、かつての飼い猫ではなかった。
腐乱臭を放ち、異様なまでに狂暴になり…。
これがペットだったからまだいい。もし、人間だったら…。
そんな事は一度も…いや、あった。その昔、哀しくも恐ろしい事件が。
絶対に一線を越えてはならない。
しかし、再び過ちを犯してしまう悲劇が…。
一家の幼い息子がトラックに轢かれ、父は…。
死んだ愛する者を生き返らせる。
一見愛故の尊い行いのようにも思えるが、果たしてそれは、本当に善き行いなのだろうか…?
死んだ人を生き返らせて、万歳万歳めでたしめでたしなのは、七つの龍の球の話だけである。
生き返ってきた息子は、もはや息子ではなかった。
もう一度会いたくて、愛しているから生き返らせたのに、逆に襲い掛かって来るという、皮肉というより悲劇だ。
そして、一度死んだ我が子を、今度は自らの手で殺めなければならないという、残酷過ぎる最後…。
その愚かな過ちは、この一度で充分知り得た筈だ。
しかしラスト、父は再びこの愚かな過ちを犯してしまう。
ある愛する人の遺体を抱き、あの埋葬地へ。そして、還ってきたのは…。
どうして人は、愚かな過ちを繰り返してしまうのか。
人は、愛の哀しみから立ち直れないのか…?
恐ろしくも哀しく、後味悪い本作に於いて、一家に助言し、手助けもしてくれる“いい幽霊”が唯一ユーモアをもたらす。
と言うか、シュールでもあった。
アメリカでは間もなく、リメイク版が公開。
この89年版は、悪くはないが、優れた大傑作!…ってほどではない。
やりようによっては、深い作品になると思うのだが…?
リメイク版も楽しみだ。