「今だからカッコイイ映画」ブリット Garuさんの映画レビュー(感想・評価)
今だからカッコイイ映画
今観てもカッコイイ映画、ではない。 今だからこそカッコよく見える映画。
題名通り、ブリットという人物の活躍を描いているが、一般的な活劇と違い、非常に乾いた演出で人物の魅力を際立たせている。 BGMは、センスのいいジャズが所々で必要最小限に使われる程度。 そもそも、サウンドによって人物の感情を説明したり、状況の緊迫感を高めようとしていない。
怒声や罵声や悲鳴など、登場人物の感情表現自体が抑えられており、一般的な刑事アクション映画のセオリーを踏襲していない。 観客が望む理想像に寄せていないことが、この映画の独自性とカッコよさを生み出している。
監督の手腕以上に大きいのは、 スティーブ・マックィーンの個性だ。 彼の演技には、こうしたら強く見えるだろうとか、こういう表情でこんな風に喋ればカッコよく見えるだろうといった、姑息さが見えない。 ただ、ブリットとしてそこに立ち、淡々と行動している。 もともと、そういう演技の作り方をする人なのだが、そこから生まれる魅力がブリットの人間像と重なり、この映画の魅力に還元されている。
あまりにも有名な、サンフランシスコの街中を160キロで爆走するカーチェイスは、 カーレーサーでもあったマックィーン自身のスタントだ。 追われる悪役も含め、 セリフや表情の演技は一切なし。 BGMは、マスタングの低く乾いたエンジン音だけ。 ダッチチャージャーが側壁にぶつかり、ホイールが外れてカラカラと転がる。 車体の揺れに合わせてブレるカメラ。 フィニッシュは、 大爆発と砂埃を上げながらの側溝ギリギリのブレーキング。 実に、迫力のあるカッコいいカースタントである。
もう一つ、この映画を象徴するリアルなシーンがある。 マックィーンが撃ち殺した犯人に近づき、頸動脈に指を当てて死亡を確認する場面だ。 血まみれで目を剥いて倒れている相手は、どう見ても死んでいる。 それでも険しい表情を崩さず、死んでいる相手を見据え、 銃口を向けたままゆっくりと近づいていく。 簡単に銃を下ろさないのは、居合の残身のようだ。 完全に相手の死が確認できるまで、相手に向けた切っ先を絶対に降ろさない。 実戦とは、そういうものなのだ。
マックィーンの他の映画でも、 倒れた相手を撃ち殺すときに左手をかざし、跳ね返った薬莢が顔に当たるのを防いでいるシーンがあった。 一般的なアクション映画では見られない演技だが、 そういう細かいところまでリアルさにこだわる俳優だったのだろう。
今だからこそ、そのカッコよさとスタイリッシュさが際立って見える。
60年代を代表する、刑事アクション映画の傑作である。