プラン9・フロム・アウタースペースのレビュー・感想・評価
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愛すべきガラクタ金字塔
噂に違わぬ怪作だった。
時代は違えど『エル・マリアッチ』とか『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいな低バジェットでも面白い映画は山ほどあるというのに、悲しいかな本作は製作費に作品の面白さが比例してしまっている。
一応はジャンプスケアなホラー映画であるにもかかわらず、全然びっくりしない。怖くもない。相米慎二みたいな固定ショットの長回しはやっぱりアクションには向かないんだなと当たり前ながら再認。
SFとかホラーとかいった見かけ上のカテゴリに審美の水準を合わせていると退屈で気が狂いそうになるので、大人しく脱力コメディと割り切るのが吉。そうすればけっこう面白い。
空を舞うUFOの頂点からワイヤーが見えてるところとか、異星人たちの親玉が中小企業のオフィスみたいなところで仕事をしているところとか、ナンセンスコメディとしてはかなり純度が高い。何がすごいかってエド・ウッド本人にはそういう自覚が一切ないところ。
中でも一番笑ったのはガタイのいい警官のゾンビ。彼は美女を抱えたまま茂みの中で立ち尽くしているのだけれど、だんだん疲れてきたのか、最後のほうになると美女を抱える腕が腰付近まで下がってきてしまっている。監督と役者の温度差をまじまじと見せつけられ、大いに爆笑した。切ない話なんですけどね…
物語も支離滅裂で軸がない。前半の基調を成していたゾンビホラーは終盤になると完全に後景化。宇宙船に乗り込んできた地球人に、異星人は唐突な反進歩主義的説得を試みる。彼らによれば地球人の科学的横暴がやがては太陽をも爆弾に変え、それは近いうちに宇宙全体の脅威になる…らしい。
なるほどこれを契機に地球人たちも自らの傲慢な考えを改めるのか、と思いきや全くそんなことにはならず、異星人は地球人たちが暴れたせいで炎上した宇宙船もろとも宇宙の塵と成り果てる。
宇宙船を逃れた地球人たちはそのさまを地上から眺めながら「次の脅威に備えよう」としみじみ兜の緒を締める。終わり。
…いや、反省しろや!
ちなみに異星人によって墓から蘇生させられたゾンビたちが何をしたかったのかは最後までわからず終いだった。女のゾンビなんかマジでずっと立ってるだけだったし。
最低最悪のクソ映画の名をほしいままにしている理由を肌身に感じることができ感無量だった。とはいえ不愉快な感じがちっともしないのは、エド・ウッド監督に人を食ったようなところがないからだ。周りの誰もが嘲笑を浮かべても、彼一人だけはこの映画を最初から最後まで信じていたに違いない。
出来はよくてもちっとも好きになれない作品というのは往々にしてある。そういうものは大抵何かを意味もなく小馬鹿にしていたり極端に冷笑的だったりすることが多い。彼の作品はちょうどその逆だ。どこまでも真剣でどこまでもメタ自認のないまっすぐなクリエイション。捨てるには愛着が湧きすぎる。
というわけでこの映画が作品の出来にもかかわらずかくも長い間多くの人々に愛され続けてきたという歴史的事実を、私はとても素晴らしいことだなと思う。
最低の映画・金の七面鳥賞を受賞
アメリカの映画評論家のメドベド兄弟が著作の批評本の読者投票で最低の映画賞を本作に授与、そうまで貶されると怖いもの見たさで興味が湧くというものでしょう・・。
今では定番となった空飛ぶ円盤ですが、アメリカのパルプ雑誌のイラストレーター、フランク・R・パウロさんが1929年に描いたのが最初と言われています、1947年のケネス・アーノルド氏のUFO遭遇事件以降、「地球が静止する日(1951)」、「宇宙戦争(1953)」、「宇宙水爆戦(1955)」、「世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す(1956)」、「禁断の惑星(1956)」と円盤の出てくる映画が目白押し、本作もそんな流れに便乗した円盤ものですが古典ホラーの名優に固執するあまり墓地を舞台にゾンビが徘徊する怪奇映画になってしまいました。
飛行機の操縦桿すら作れないほどの予算不足ですから円盤などもっての外、セットも紙芝居並みですし、脚本、演出、照明、撮影、編集にいたるまで全てが粗雑、ホラーに至っては最早コメディかと目を疑うありさまでは最低の映画と称されるのも納得せざるを得ませんね。
亡くなったベラ・ルゴシさんへの追悼が製作の動機の一つとすれば、もう少し見せ場が欲しかった。妻(バンパイラ)の死を嘆いて亡くなった老人(ベラ・ルゴシ)という設定なのですからゾンビで蘇った二人が泣かせる絡み方くらい入れても良かったでしょう。
もっとも、そんな気遣いができるくらいなら普通の低予算B級映画に落ち着いており、最低映画の称号を得てはいなかったでしょうね。
星無しが本作への最高の賞賛なのでしょうが兵器競争に対するシニカルな宇宙人からのメッセージはいたってまともでしたし、プラン9がゾンビ計画とすればプラン1~8までは何だったのかと興味も湧きましたので星一つと致しました。
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