「目には目を歯には歯を実行するリアルな戦争大スペクタル」プライベート・ライアン Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
目には目を歯には歯を実行するリアルな戦争大スペクタル
ノルマンディー上陸作戦の中でも、最激戦で血まみれオマハと呼ばれる米軍3千人が死亡し4万人が負傷したらしいオマハビーチの戦いの再現で映画が始まる。凄まじいまでのリアルさと大迫力で、とてもこの中で生き残れるとは思えないが、的確な指示と行動で部隊率いて突破する指揮官トム・ハンクス演ずるミラー中隊指揮官が主人公。観客は彼の能力を冒頭で見せつけられる訳で、上手い導入でもある。
彼は死亡した3人の兄を持つ末弟ライアンを探し出し救援する任務を、6名の部下を率いて遂行しようとする。ライアンを発見したものの彼は部隊に残り闘いたいと言う。結局、一緒に戦車等圧倒的な武器を有するドイツ軍と戦う展開となる。知恵を振り絞った作戦を基に繰り広げられるこの戦いの映像が凄まじく素晴らしい。また、圧倒的物量の前に弾も尽き個性的な部下たちが1人2人とやられてしまう描写が、戦争の過酷さを訴える。そして最後は主人公も、ライアンに命を無駄にするな、しっかりと生きろとのメッセージを残し亡くなる。
ということで、この映画は大戦で勇気を持って果敢に戦って亡くなった人達への賛歌であり、同時に生き残った人間達の人生への共感が描かれている様に思えた。
一方もう1人の主人公の存在がある。フランス語とドイツ語話せることからリクルートされたジェレミー・デイビス演ずる作家志望のユダヤ人アパムである。彼の戦争による成長もテーマとなっていた。最初は後から戦闘を望遠鏡で見ているだけ、仲間がやられても相手に手を出せず震えていただけの臆病人間が、最後は仲間を殺った兵士、彼が以前救った人間でもある、を撃ち殺すことができ立派な戦士となった。ジョーズと同様、頭でっかちのインテリ男が死闘を通じて大きく成長する物語。
だが、降参している敵兵を殺して良いという戦争ルールは無く、自分的には違和感も残った。敵兵1人だけを殺し、「目には目を歯には歯を」は守られているが、やはり戦争勝者の感性であるとは思った。日本人的感性とは異なり、戦勝国の米国人にとっては良い戦争と悪い戦争が有る。第二次大戦は悪ナチスとの良い戦争。仲間1人を殺した敵1人だけを殺すのは悪では無いという考え方は、米国では自然で支持されるということなのだろう。相互理解の観点から日本人もその感性は良く知っておくべきかもしれない。ただ、クリント・イーストウッド映画の様な、戦争を政治利用する米国国家の欺瞞性までしっかりとは考察されていない様に見えるのはスピルバーグの歴史的視点の広さの限界を示している様でかなり残念。
戦争の現実、過酷さや残酷さを十二分に描いていて、だからこそ非情でもある任務を忠実に遂行した米国兵士達の偉大さを謳っている。決して反戦ではない無名の英雄達への鎮魂のスペクタクル戦争映画と理解した。
今日、イスラエル軍がレバノン地上侵攻。自分にはこれが国際法的に正当化できるとはとても思えないが、米国政府はなお、この侵攻を支持するのだろうか?爆発テロ行為も含めて、イスラエル政府は「目には目を歯には歯を」を通り越して、倍返しをしている様に思えてしまう。
Kazu Annさん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
戦争が目の前で起きているような映像、兵士達それぞれが抱えた思い等、感じる事の多い作品でした。
救いのない戦争が、まさに今も行われているという事実が残念でなりません。
こころさん、コメント有難うございます。
成る程、監督の意図は別にして、戦争がアパムを変えてしまった。確かに、その様にも見えますね。日米の戦争に対する感性のギャップの大きさは感じました。