「キリギリスが、正しく野垂れ死ぬ。」冬の旅 bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
キリギリスが、正しく野垂れ死ぬ。
監督・脚本のアニエス・バルダは1929年生まれ。1970年代の退廃した若者文化を、壮年期に横目で眺めた世代。
フランスの片田舎の農業地帯で凍死した女性の日常を、彼女と関係した人々、目撃した人々の証言で綴っていくと言う記録映画的な建付け。狙いは、この年代の生き方に対する、一般世間の評価に客観性を持たせること。
証言や関係性は多様を極めます。自由であることへの羨ましさを口にするもの。興味から始まり、一定の共感を抱いたり、惹かれたりするものもいます。自らの価値観を押し付けて施しをしようとするもの。働くことを教えようとするもの。一緒に自堕落の限りを尽くす同類。利用しようとするクズの中のクズ。
もうね。多様です。一般世間の評価の多様性を反映しています。
でですよ。
もうね。当の本人と来たら、ボロボロのクズっぷりです。
楽して生きようとして、実際の享楽的な生活を送った女の子が、キリギリスの如く冬の農地で野垂れ死ぬ。全く同情の念が湧きません。哀れだと思いますし、少しは助けたくなるけれど。これは、どーもならん。
要するに、冷ややかな視線以外に感じるものが無い。
自由さや率直さと言う魅力はあっても、現実世界で生きて行くために必要な事は、他にあるし、それをおざなりにしたり他人任せにするってのは、明確に間違いだよ。って言う映画。
にしても、1985年製作でこの音楽はナシ。って、ずーっと思ってましたが、70年代に流行りながら完全に廃れた非音楽的な和声と旋律を、敢えて使ったのだと考えたりした。
冒頭はつまらなかったんですけど、途中、作者の意図が伝わって来てからは面白かったです。
今も、こんな若者、一定数は日本にもいますけどね。と言うか、古代から、いたんでしょうねぇ。様態は違えども。って思った次第です。
興味深かった。
とっても。