「冬の寒い朝、南フランスの畑の一角でひとりの若い女性(サンドリーヌ・...」冬の旅 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
冬の寒い朝、南フランスの畑の一角でひとりの若い女性(サンドリーヌ・...
冬の寒い朝、南フランスの畑の一角でひとりの若い女性(サンドリーヌ・ボネール)の死体がみつかる。
事件性はなく、風体からも野宿の旅行者、もしくはホームレスのよう。
彼女に出逢ったというひとびとの証言を綴っていくと、彼女の人生が垣間見えてくる・・・
といった物語。
冒頭から、死体があらわれるが、ミステリではない。
彼女の人生の、ミステリアスな側面を描くという意味でのミステリでもない。
ただただ、人々が構成する社会から意図して逸脱した若い女性の物語。
映画は、彼女の過去と、彼女の人生と少しばかり知り合ったひとびとの証言で構成されている。
ある意味、ドキュメンタリー映画のようなのだが、アニエス・ヴァルダ監督の構成力が恐ろしい。
彼女の死体が発見されたのち、過去へと遡るのだけれど、彼女の行動は大過去から直近へと一方向でありながら、証言者たちはの登場は必ずしも一定ではない。
だからといって、観る側に混乱はもたらさない。
映画が持つ、時系列的性質の解体と再構築のように感じられます。
この解体と再構築がもたらすのは、鑑賞する側への「委ね」の大きさなのだけれど、それは彼女の行動の是非ではなく、彼女がとる非日常的行動の意味合いで、彼女の存在はある種の「稀れ人(異世界からの神)」のようにも見えます。
自由でありながら、自由でない。
ひとびとを縛している「社会」からの逸脱は、自由のように見えて、生きることには不自由。
でありながら、幾人かのひとびとからは「憧れ」のようなまなざしを向けられる。
唯一、彼女を「逃避者」と語るのが、山羊飼育と農業を営む哲学者である点が興味深いです。
観はじめたあたりはそれほど面白いわけではないのだけれど、彼女の存在を「稀れ人」ではないかと思ったあたりから、俄然おもしろくなりました。
演出では、エピソードのつなぎで、彼女の移動シーンを横移動でとらえているショットで、彼女の移動にあわせてカメラが横移動(右から左へ)するのですが、最終的には彼女を追い越し、背景である風景なり何なりを映し出すところ。
彼女を超えて映し出される風景なりなんなりが、観ている側に、どれほど接近するか・・・
このあたりにヴァルダの非凡さを感じました。
とはいえ、彼女に共感できるかどうかは別。
集団がつくる「社会」という現実からの逃避で得る自由には、「生」に対しても責任が生じるということで、そんな責任は負いたくないので現実のなかで煩悶するのか平凡人ということなのかもしれません。
原題は「家もなく、法もなく」です。