「老ガンマンの男と男の友情をサム・ペキンパーがオーソドックスなスタイルで描く。」昼下がりの決斗 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
老ガンマンの男と男の友情をサム・ペキンパーがオーソドックスなスタイルで描く。
NHK BS の放送にて。
『荒野のガンマン』に続くサム・ペキンパーのデビュー2作目。
ランドルフ・スコットの俳優引退記念作品であり、先に引退していたジョエル・マクリーが一時復帰して友情出演している。
老齢の二人のガンマンが〝くされ縁〟で結ばれた友情と闘いを描いているのだが、かつて二枚目西部劇スターとして活躍した主演の二人は、この当時まだ50代だった。
カリフォルニアのとある町、自動車が通りを走っている時代の変わりめ。
金山から銀行へ金を運搬する仕事を請け負うために元連邦保安官のスティーブ(ジョエル・マクリー)は馬で町にやって来た。
彼はイカサマ射的ゲームで小銭稼ぎをしていた昔の相棒ギル(ランドルフ・スコット)と偶然再開し、金運搬の仕事に誘う。
やはりラクダと馬のイカサマ競争の賭けで稼いでいた若者ヘック(ロン・スター)をギルが誘い、三人で金山に向かうことになる。
途中、一行は金山の麓の小さな牧場に一夜の宿を借りる。
牧場には信仰に厚い主とその娘エルサ(マリエット・ハートリー)か二人で暮らしていて、エルサは厳格な父親に束縛された生活を送っていた。彼女は金鉱で働くビリーという男と結婚の約束をしていると言うが、それも父親は快く思っていない。
父親と言い争って家出したエルサが三人に合流し、四人で金鉱のキャンプにたどり着く。
キャンプに着くやいなやエルサはビリーと結婚式をあげることになるが、ビリーとその兄弟たちハモンド一家はならず者で、彼らに強姦されそうになったエルサを救ったスティーブたちは彼女を牧場の父親に送り届けるため連れ帰る。
ここからハモンド一家との西部劇らしい戦いが展開する。
本作ではまだペキンパーのバイオレンス描写は見られず、極めて正当な西部劇だ。
軽いユーモアも織り込まれている。
運搬人募集の広告には運搬する金は25万ドルだと書かれていたが、銀行の頭取から2万ドルの間違いだと言われ、金鉱に着いて実際に計量すると1万ドル余りしかなかった。
銀行で運搬仕事の契約を結ぶとき、スティーブは一人で契約書を読みたいと洗面所に行くが、老眼鏡をかけないと見えないからだった。
ギルとヘックは金を持ち逃げする企みで同行していて、その機会を狙っている。
エルサの父親とスティーブが聖書の引用の応酬で金と欲について議論したりする。
スティーブたちが牧場にやって来たとき、農作業中のエルサは慌てて家の中に駆け込むと野良着からドレスに着替えるというのが可愛い。
父親に切られたというショートヘアが西部劇のヒロインとしては珍しい。
エルサの父親は一人娘を守ろうとしているのだが、男尊女卑的な考えが根底にありそうだ。アメリカでもこの時代なら珍しいことではなかったのだろう。
勢いで家を出てしまったエルサは、金鉱にやって来て初めてビリーたちハモンド兄弟の粗暴ぶりを知る。ビリーは何度か牧場に来てエルサを口説いただけの関係で、ビリーのことはよく知らなかったようだ。
父親の庇護の下に暮らしていたエルサは、つまり世間知らずで男に免疫がなかったということなのだろう。
スティーブとヘックがエルサを連れて帰ろうとすると、ギルはエルサとビリーの結婚が成立していることにこだわる。そして、アル中の判事を脅して結婚証明書がないと証言させ、キャンプの住人たちと自分自身に折り合いをつけるのだから、法に厳格なのか無法者なのかどっちだ、という感じだ。
ギルとヘックが金を持ち逃げしようとしたことに気づいたスティーブは、ギルを決して許そうとしない。この旧友を心から信頼していたからだろうか。
途中でハモンド兄弟五人の襲撃を受け、なんとか二人を倒して切り抜ける場面で、ライフルと拳銃の射程距離の違いが語られる。
これはクライマックスの牧場での銃撃戦でも作用する。
牧場では、先回りしたハモンド兄弟にエルサの父親は殺されていた。
拳銃しか持たず、わずかな窪みに隠れただけのスティーブとハックは、家の中に隠れてライフルで撃ってくるハモンド兄弟に苦戦する。
スティーブとハックが負傷して万事休すのところで、前夜から姿を消していたギルが拳銃片手に駆けつけるという胸熱の展開となる。
スティーブはギルと二人でハモンド兄弟三人に決斗を申し入れ、ハックとエルサを救おうと考える。
スティーブが「あれでいこう」と言うだけでギルには全てが伝わるという、あ・うんの呼吸なのだ。
一方のハモンド兄弟は、決斗となると汚い真似をしてはハモンド一家の名折れだと、正々堂々と家の外に歩み出てくる。
これこそ、ならず者といえども西部に生きる男たちに息づいている誇りなのだ。
かくして2対3の決斗に突入する。お互い隠れる場所などなく正面から拳銃で撃ち合うのだから、西部の男たちは勇敢だ。
よくある一発の早撃ちで決着するのではなく、近距離で撃ち合い、双方とも何発か被弾する。
ハモンド兄弟を倒したものの、スティーブは致命傷を負った。
ギルが「お前の意志を無にしない」とスティーブに言うと、スティーブは「分かっている。ちょっと気が迷っただけだ」と言ってギルを赦す。
スティーブとギルとの間にあるのは盲目的な友情ではない。彼らには我々が知らない歴史があり、二人で修羅場を越えてきたのだろうけれど、いつか別れ別れになっていたのだから考え方も生き方も違っているのだ。
それでも二人には、俺とお前だから通じるものがあったのだ。
「若い者に死ぬところを見せたくない」と言ってハックとエルサを近づけないようギルに頼むと、ギルは若い二人の肩を抱いてスティーブから離れていく。
老ガンマンには、自分の命に代えても若者を守るという熱い侠気(オトコギ)もあったのだ。