劇場公開日 1996年12月28日

「社会派な面もあるが、米国的な強引なハッピーエンド感がある作品」評決のとき モンブランさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 社会派な面もあるが、米国的な強引なハッピーエンド感がある作品

2025年12月12日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

怖い

冒頭含め衝撃的な内容があるが、映像でそのものを映すことなく想像させるのはとても好感が持てる。最近の作品はこんなにもリアルに見せているのだとばかりに衝撃的な映像を使うことに酔っているものが多いが、観る者に対して不必要なまでに心にダメージを与えるだけでなく、ダメージを受けたことにより、内容をしっかりと受け取る機会をも奪うものでもあり、視聴者に対する加害性が強い。しかし、この作品は想像させることで目から入る心理的加害性を避けつつ、いかに残忍な事があったかを理解させている。逆にこれを具体的にどういうことが起きたか想像出来ない人はまだ観る年齢には早かったということになる。そういう意味ではこのようなテーマのわりに幅広い年齢が安心して観ることが出来ると言ってもいいだろう(わからなくても何か悪いことが起きたことはわかる為)。
時代としてはアメリカで人種隔離政策があった頃の設定なので、その当時の肌感覚やKKK等聞き慣れていないと少し戸惑う部分はある。
主人公が裁判で被害にあった少女の話をし、聴衆が黒人の少女の話だと想像して聞いていた最後に白人だった。と言うことで白人の聴衆に自分事のように感じさせる場面は賛否両論あるようだが、白人黒人間に関わらず、人は無意識に客観性を失っている事もあるので、こういう表現は悪くないと思っている。
ただ、最後の判決のくだりはモヤモヤする。
足を失っても黒人の父親に理解を示す保安官には心を打たれるが、凶悪犯の2人に対してはまだしも保安官に対しても無罪というのはどうかと思う。執行猶予的なものはないのだろうか?この裁判の結果次第で黒人差別が助長されるかが掛かっているのは現実としてはわかるが、だからといって罪を無かったことにするのはいかがなものか。
被害女児が事件にあってからあれほどの短時間で被害のショックを乗り越えるとは思えず、裁判所に出てきたり、喜んでいる姿は父親の裁判とはいえ、人種差別をテーマとして正義を振りかざしているだけで、女児の心の傷を軽く捉えているようにしか思えない。女児が苦しんでいる描写を必ずしも入れなくて良いが、ショックは人前に出てくる時の描写程度で本人はそこまでではないような感じがした。家で待っていて判決結果を聞く方が良かったのではないかと思った。
リベラルの自分の都合の良いテーマだけを正義とし(今作の内容でいえば黒人差別だけを重視)、結果としてそれ以外(今作では少女の受けた傷に対する扱いの雑さや黒人の被告がやった事を全肯定)は置き去り、無視等リベラルの掲げる多様性や公正さとは真逆で一見正義のようで矛盾ばかりが目立つリベラルらしい作品ともいえる。

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モンブラン
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