日の名残りのレビュー・感想・評価
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アイヴォリー監督の 美意識
ジェームス・アイヴォリーは絵画と音楽鑑賞が趣味で、その片鱗がうかがえる美しい映画となった
ダーリントン・ホールの美しいこと!
(「ハワーズ・エンド」にて家に就いての うんちくを述べている)
執事のスティーブンスは主人の生活を完璧にすべく、生きていて ホールの美しさにもミス・ケントンの心情にも 心を動かされない
ダーリントン卿が ナチシンパの烙印を押された後、次の主人の元で ベン夫人(ミス・ケントン)に会いに行く途中の話である
ホールの外に出て 市井の人々に出会いながら、ダーリントン卿への非難の数々、自分の盲従が 卿の助けにならなかったこと、ミス・ケントンを失ったことを、過去の出来事をフラッシュバックさせながら 理解し始めてゆく
プロフェッショナルに徹するあまり ある意味、自失してしまった執事を ホプキンスが、ミス・ケントンを エマ・トンプソンが演じていて 盤石である
脇を J・フォックス、ロンズデール、クリストファー・リーヴなど 演技派が固めていて愉しい
カズオ・イシグロの原作だが 完全にアイヴォリー監督の映画になっており、
私には やはり、一番の主役は ダーリントン・ホールのように思える
最後の放たれた鳩は、スティーブンスの意識の解放の象徴だろう
執事は (職人が大好きな)日本人のようでもあり、人の良い ダーリントン卿もまた、しかり
二人の失敗は、日本人が陥り易いものにも 思える
(真摯にやっているのだが… )
イギリスと日本、同じ 島国で 住民は意外とナイーブなんじゃないだろうか? と、思ったりもした
(支配階級は別)
彼は回想できるだけの記憶を保持している。
ミス・ケントンに心底同情しますよ。仕事に全てを捧げることだけが人生という人に恋してしまった訳ですから…悲しいね。
あれ、スティーブンスの回想なんだから彼は全部覚えてるんだよね?労働者に政治は無理だと馬鹿にされたこととか。怒りも知ってるし、おそらく質問への意見も言えた。でも「仕事」での正解を優先させた。執事として。
ミスケントンが、結婚するって言ってむしゃくしゃしてワインを盗んで飲もうとしたものの割って、シットってゆうてたし。好きやってんよね?きっと。そう思いたい。
ダウントンアビー好きなので楽しく見られます。
若いヒューグランドは美しいですねー。
時代背景は第一次世界大戦後ですね。
ダウントンアビーやらナチスドイツが題材の映画やら、ダンケルクもウインストンチャーチルも見たしで、結構よく分かりました。
20世紀前半のイギリス社会に興味がないと、きついかなー。
京都シネマ名画リレーにて。500円で鑑賞。
二週間前に同じく名画リレーでやってた「ある晴れた日に」は見に行けず落ち込んでましたので、「日の名残り」はがんばった!
多分カズオイシグロ原作だから、お客様さん集まってました。ノーベル賞の広告効果は絶大ですなぁ。ノーベル賞につられたと見られる方々はいびきかいて寝てはりました。
イギリスの貴族の名残りか?
古き良きイギリスの全てが詰まった、とってもイギリス的な映画
イギリス好きとして本当にうっとりしてしまう映像ばかりで、映像も精神もことばも衣装も文化も、何もかもがイギリスにあふれている、そんな映画。
戦時中のイギリス貴族に使える執事が主人公ですが、そこから見える当時の景色がとても面白い。貴族と執事という圧倒的な格差。イギリス・フランスが新興国アメリカに対して持つ想い、この描写は中々イギリス的だった。屋敷でふるまわれる紅茶とブランデーと葉巻、それに対する町のパブのビール。貴族が乗り回すクラシックカー(これがまたカッコいい!!)と、ミス・ケントンの自転車。マナーハウスの美しさも素晴らしいけれど、個人的には貴族たちの衣装に終始釘付けでした。ツイードのスリーピースのスーツ、蝶ネクタイの燕尾服、どれもディテールが凝っていて素敵です。
あとは、字幕だとわからなくなってしまいますが、おそらくとんでもなく回りくどい英語を話していたのも、上流階級だなぁとうっとり聞いていました。
主人に尽くす執事と共に働く女性のプラトニックな恋が出てきますが、メインは執事の執念的な生き方であって、こーゆう生き方が存在する点で、日本とイギリスは似ているところがある気がします。多分、アメリカ人には作れない物語。ところどころ、イギリスっぽい皮肉的な表現やブラックジョークがあったのもまた良かった。
とはいえ、最終的に屋敷はアメリカ人の手に渡るわけですが… 彼はどういう意図でこの屋敷を買ったのか。そういえば、最初のオークションの意味がちょっとわからなかった。。。
主人公の執事はあのハンニバルことアンソニー・ホプキンスが演じて素晴らしいのですが、見どころは美しすぎる若き日のヒュー・グラントでしょうか。本当にかっこいいです。
人に仕えるという仕事
時代に取り残されても今更生き方を変えられない
総合:70点
ストーリー: 65
キャスト: 80
演出: 75
ビジュアル: 75
音楽: 80
原作を読んだことがないが、NHKの英語教育番組で昔に日系英国人であるカズオ・イシグロのこの本のことを取り上げていたので存在は知っていた。執事を主人公にした珍しい作品で、英国の伝統の尊厳を感じさせる。本作も含めて英国文学を基にした時代劇(というほど古くもないが)は格調と質が高い物が多い。
自分の仕事に誇りを持つが、仕事一筋でお堅いがゆえに本当の自分を出すことが出来ない男が何とももどかしく、彼自身の心の中にも後悔や喪失感もあるだろう。気になる女性が精一杯の告白をしたり泣いたりしていても、仕事に結びつけた振る舞いしかすることが出来ない。それはまるで真面目で純情な中学生の生徒会長のような行動である。もうこのような貴族の下で自分を押し殺す職業の時代は、窮屈な屋敷に迷い込んだ後で自由に空に向かって飛び立つ鳩のように過ぎ去っていくのかもしれない。屋敷からは英国貴族が去り、貴族とは縁のない平等の米国から新たに主人がやって来る。それでも今更過去にも戻れずそれ以外の生き方を知らず、それを変えることも出来ないやりきれなさが残る。
でも時代に取り残された男の、たったそれだけの物語でもあった。演技・映像・音楽は良かったし文学的な美しさや儚さはあるのだけれど、物語自体にすごく面白い物語かといえばそうでもなった。自分が貴族社会に生きていないから、思い入れが少ないのが原因かもしれない。
自らを人道主義者と思い込んで高潔な理想を掲げ、自分の信念に基づいて行動し、それがかえって世界を破滅に導いてしまうダーリントン卿。これはただの映画だし主題とは関係ないのだが、現代の日本もそうだがどの時代にもこんなおめでたい人々がいたのだなと思った。
執事という生き方
先に原作を読み、DVDで見た。
原作には、田園風景などイギリスの美しい景色が描かれていて楽しみにしていたが、
映画ではほとんど省かれていて残念だった。
ジェームズ・アイボリー監督の作品は「眺めのいい部屋」と「モーリス」しか見てなかったが、
豪華な額縁に入った具象絵画のような重厚な作品の内側に、自由な感性と奔放な情熱が感じられて
とても良かったので、期待して見た。
導入部は、ワクワクしていたが、執事長の矜持を醒めた眼で見るように感じられる部分があり、
原作とは全く異なる印象だった。
原作は執事長の心情に寄り添って書かれているが、映画になる事で、彼が見ないようにしてきた
彼を取り巻く世界の無情な変化と、彼の滑稽なまでの執事としての生き方へのこだわりが、
見る側にはっきりと伝わる事になったのだろう。
アンソニー・ホプキンスが上手いのは言うまでもないが、エマ・トンプソンの演技が素晴らしく、
彼女を知っただけで、見る価値はあった。
どちらも劇場で見る事はできなかったが、同じカズオ・イシグロの「わたしを離さないで」は、
原作者が製作に参加しているので、原作の雰囲気を大事にしているだろうと楽しみにしている。
時代の変化に大人の愛の変化を見る。
日本人の中には否定できないヨーロッパ貴族への憧れがある。本作に登場する英国貴族の重厚かつ華麗な生活様式に魅了されてしまう。広大な敷地にある屋敷、豪華な美術品、上質で歴史ある家具・調度品、見事な彫刻のほどこされた壁等の、画面に現れる小物1つ1つにも目を奪われる。さらには狩猟や晩餐会などの華麗な催し物・・・。これら1つ1つが見るものをひきつけてやまない。しかし本作の特異で面白いところは、それら貴族の生活を使用人の目線で描かれる点だ。今ではほとんど存在しなくなった「執事」というプロフェッショナルな職業を通して、新聞にアイロンをかけたり、テーブルセッティングに1mmの狂いもないように定規を使うなどの、今まで知る機会のない使用人の日常生活がとても興味深い。1つの屋敷にこれほど大勢の使用人がいることに驚かされる。
物語は第二次世界大戦を挟んだ30年代と50年代の様子を時系列を無視して語られる。戦争という世界的に大きな出来事を、「ダーリントンホール」という1つの屋敷に集約させ、それによって起こったさまざまな「変化」が的確に描写されている。執事と女中頭のラブストーリーを核に、国際情勢、階級差別、時代の移り変わり等、様々な要素をとりまぜた豊かな人間ドラマである。
「執事」は自分の意見を持ってはならない・・・。この信念のもと、完璧なまでに(時には冷酷と思われるほど)感情を表に表さない主人公に、対立することでしか近づけない彼女。立派な大人の2人が、まるで初恋にとまどう中学生のようだ。2人が最も接近するのは、本を取り合うというたわいもない行為。だが、秘められた感情は昂ぶり、触れ合った指先は震え、熱いまなざしは絡み合う。最高にセクシーなシーンとなっているが、その刹那、男は自分の感情に驚き怯え、女に「部屋を出ていってくれ」と言ってしまう。このもどかしさ、はがゆさ。どこまでも不器用な2人が、愛らしくも切ない。
本作はよく悲恋物語と称されるが、私はそうは思わない。たしかに、女は、心を開かない男にあてつけて、他の男と結婚し、屋敷を去っていく。彼女のいない20年の間に、主人はヒトラーに加担した「非国民」とされ、失意の中死に、貴族の伝統を知らないアメリカ人の富豪が新しい主人となった。世の中は確実に変化した。そして彼の中にも、「確実」に変化がおきたのだ。
自分の間違いを正すために、彼は20年ぶりに彼女に会いに行く・・・。不幸な結婚に疲れきった彼女と、今度こそ「執事としての人生」ではなく「自分の人生」を歩むために。
しかし、彼女は再び夫の元へ戻っていく。だがそれは別れではない、始まりだと私は信じる。最後の握手に、確実に繋がれた手に、そのたった一瞬のふれあいに、ただそれだけで彼の内に凝っていた「愛」や「罪の意識」が浄化されたのだ。私はその、ほんの一瞬握られた手に、このもどかしい大人の愛の成就を見た。
窓から放たれた鳩が、広大な屋敷の上を飛んで行くラストシーンに、新しい時代=新しい人生への希望を信じられ爽やかな気持ちにさせてくれる、文芸映画の逸品。
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