「時代に取り残されても今更生き方を変えられない」日の名残り Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
時代に取り残されても今更生き方を変えられない
総合:70点
ストーリー: 65
キャスト: 80
演出: 75
ビジュアル: 75
音楽: 80
原作を読んだことがないが、NHKの英語教育番組で昔に日系英国人であるカズオ・イシグロのこの本のことを取り上げていたので存在は知っていた。執事を主人公にした珍しい作品で、英国の伝統の尊厳を感じさせる。本作も含めて英国文学を基にした時代劇(というほど古くもないが)は格調と質が高い物が多い。
自分の仕事に誇りを持つが、仕事一筋でお堅いがゆえに本当の自分を出すことが出来ない男が何とももどかしく、彼自身の心の中にも後悔や喪失感もあるだろう。気になる女性が精一杯の告白をしたり泣いたりしていても、仕事に結びつけた振る舞いしかすることが出来ない。それはまるで真面目で純情な中学生の生徒会長のような行動である。もうこのような貴族の下で自分を押し殺す職業の時代は、窮屈な屋敷に迷い込んだ後で自由に空に向かって飛び立つ鳩のように過ぎ去っていくのかもしれない。屋敷からは英国貴族が去り、貴族とは縁のない平等の米国から新たに主人がやって来る。それでも今更過去にも戻れずそれ以外の生き方を知らず、それを変えることも出来ないやりきれなさが残る。
でも時代に取り残された男の、たったそれだけの物語でもあった。演技・映像・音楽は良かったし文学的な美しさや儚さはあるのだけれど、物語自体にすごく面白い物語かといえばそうでもなった。自分が貴族社会に生きていないから、思い入れが少ないのが原因かもしれない。
自らを人道主義者と思い込んで高潔な理想を掲げ、自分の信念に基づいて行動し、それがかえって世界を破滅に導いてしまうダーリントン卿。これはただの映画だし主題とは関係ないのだが、現代の日本もそうだがどの時代にもこんなおめでたい人々がいたのだなと思った。