「後悔は少なめのMy Life」日の名残り kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
後悔は少なめのMy Life
抑制したい大人の恋物語かと思いましたが、どちらかと言うと後悔の物語かなぁ、との印象です。
時代は1930年代、英国貴族ダーリントン卿に使える執事(バトラーと言うらしい)スティーヴンスは、完璧に仕事をこなそうとする人です。思想など個人的な感情は一切抑えて忠実に主人に尽くすのが執事の本懐であると信じて疑いません。父の死に目においてもクールに振る舞い、仕事を優先するタイプです。アナログ版AIみたいな人です、ヘンな表現ですが。
スティーヴンスのご主人・ダーリントン卿はいい人なのですが、なぜかナチスの思想に染まり始めます。ユダヤ人の使用人をクビにするなど結構ヤバくなっていきますが、AI男スティーヴンスはご主人に忠告などしません。なので、ダーリントン卿の周囲はだんだんときな臭い雰囲気になっていきます。
スティーヴンスはかなりオジサンですが、部下のできのいい美女・ケントンにどうやら好かれている様子。一方でスティーヴンスも好意を持っているようですが、AI男なのでつれない態度に終始してます。
で、この作品、現代から過去を振り返る構成なのです。本作における現代とは1950年代。ダーリントン卿はどうやら没落し、卿の館はアメリカ人のルイスさんが引き取り、スティーヴンスはルイスに仕えてます。
この現代パートが本作のキモだと思いました。
このパートで、スティーヴンスの後悔がはしばしに見えるのです。
車がガス欠になり、パブで一夜を明かすスティーヴンス。マスターの息子がダンケルクで戦死した、と聞かされて、スティーヴンスは何かを実感します。
送ってもらった男から、ダーリントン卿の最期を尋ねられると、「晩年は後悔していた」と語っていますが、その後ケントンと再会したシーンで語られる最期とは異なります。どうやらもっと悲惨な最期だったっぽい。
ケントンとの再会の理由は、ケントンをルイスの館にスカウトするためでした。しかさ、孫と過ごす、と言われ断られた挙句、「夫を愛している」と告白され(まぁ当たり前だと思いますが)、なんかショックな表情のスティーヴンス。
結局、執事だなんだと言いながら自分を抑えて、つまり自分を偽って生きたことへの後悔が現代パートには通底していると感じました。もし、主人に忠告していれば…もし、ケントンに素直な気持ちを伝えていれば…
決してスティーヴンスは後悔を表現しません。しかし、そのような切ない気持ちが伝わってきました。
最後は明るい兆しで終わっていくため、鑑賞後の後味は清々しいです。高尚で気品ある雰囲気の良作でした。