ハムレット(1964)のレビュー・感想・評価
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シェークスピア映画を代表するソビエト映画の知られざる名画
わが映画遍歴のオリジン。12歳の少年を一瞬にして映画の虜にした偶然の出逢いは、淀川長治氏の日曜洋画劇場です。インノケンティ・スモクトゥノフスキーの演じるハムレットに感動し、映画の魅力に夢中になってしまいました。父に連れられてディズニー映画「バンビ」を観た5歳のときから、東宝の「ゴジラ」「モスラ」や大映の「ガメラ」などの怪獣映画しか興味がなかった小学生時代を経て、初めて説明の付かない感動に見舞われたのです。
振り返れば、これは思春期によくある夭逝へのあこがれであったと思います。学校図書のモーツァルトの伝記書を読んで、3歳でピアノを弾き5歳で作曲をした神童が35年の短い生涯を閉じたことに衝撃と憧憬を持ち、自分も何かを成し遂げ若くして死にたいと心に秘めていました。そんな少年にとって、シェークスピアが創造したハムレット像は何と理想的でしょう。父に対する敬愛と真面目過ぎる正義感の持ち主が、自分を取り巻く大人たちの悪を追求し、自らの命まで犠牲にして立ち向かう姿は人間らしく美しいと魅せられてしまったのです。純粋な少年の心を持ったハムレットの一生は短く終わったが、為すべきことをして死んだ価値ある人生であったと!スモクトゥノフスキーの繊細でしなやかな名演は人間ハムレット像を映像美に映し出しています。
その後、思うように才能を開花させることなく、挫折と苦悶を繰り返し青年期を過ぎてしまってから、漸く自分の考えが間違いであったことに気付くのですが、30年の年月を経て再会した映画「ハムレット」は、12歳の少年を感動させたままの、素晴らしいシェークスピア劇として存在していました。凡庸なるスノッブの自分は、悩み苦しむハムレットを諭すように見ている己の老いを自覚しないでは居られなかった。
天才三島由紀夫氏が少年期に「肉体の悪魔」のレイモン・ラディゲの夭折に憧れたことを知る、その名随筆「夭折の資格に生きた男」でジェームズ・ディーンのような選ばれし善人の才能ある人間に限られたものが夭折であると、教えてもらいました。
そして、「ベニスに死す」のなかでアッシェンバッハの友人が発する、世の中で最も醜いものは老醜であるとする言葉が、今の私の価値観で大きな意味を持っています。生き続けるなら、ただ老いるのではなく、せめて精神的に若くありなさいと。そのために私には映画を神様から与えられたのだと思うのです。アナスタシア・べルチンスカヤのオフェーリアの儚げな美しさ。自然美と幻想的な世界の何とも美しいモノクロ映像。ショスタコーヴィチの重厚な音楽。コージンツェフの柔軟で格調ある演劇的演出の完成度。すべてが素晴らしい。
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