「誇り高きシカゴ・ファイア」バックドラフト kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
誇り高きシカゴ・ファイア
午前十時の映画祭13にて。
こんなに泣ける映画だったとは記憶していなかった…こっちの涙腺が緩くなってる所為でもあるが…。
ハンス・ジマーによるテーマ曲はフジテレビの「料理の鉄人」で有名になったが、名曲だと思う。
この映画で“バックドラフト現象”というものを知ったでしょう、皆さん。
主人公兄弟の弟役はキャスティングが難航し、ウィリアム・ボールドウィンはオファーされた兄のアレック・ボールドウィンからの紹介で決まったとか。
ブラッド・ピットはオーディションで不採用だったが、トム・クルーズ、ジョニー・デップは出演を断ったという話は有名だ。
他にも人気若手俳優たちが出演を断ったらしいが、それは弟よりも兄のキャラクターの方が魅力的だったからだろうと、想像する。カート・ラッセルはこの兄のキャラクターのことをトム・クルーズから聞いて自ら出演交渉をしたというのだから、トムが兄のキャラクターに魅力を感じていたことは事実だろう。
W主演のカート・ラッセルを始め、ロバート・デ・ニーロ、ドナルド・サザーランド、スコット・グレン、J・T・ウォルシュという実力派俳優がタレ目のナイスガイを支え、相手役としてジェニファー・ジェイソン・リーが色を添えている。
が、私は兄の元妻役のレベッカ・デモーネイが好きだった。この映画のヒロインはジェニファー・ジェイソン・リーだから、初登場場面の演出はジェニファーにインパクトを持たせているが、私は何気ないレベッカ・デモーネイの初登場シーンにこそドキッとした。
当時、男臭い漢の代表格だったカート・ラッセルが、元妻に「君が恋しい」と情けなくすがる場面が堪らなく良かった。
火災のシーンでは本物の火を使い、逆回転や特殊セットを駆使して撮影されたそうだが、まるで炎が生き物のごとく襲いかかって来る様を見事に表現している。
メインキャストたちが炎の間近でノースタントで演じたことは、今や伝説。
トム・クルーズがノースタントに拘るのは、この映画で消防士を演じなかったことへの後悔からかもしれない…。
連続放火事件のサスペンスを縦軸に、消防士兄弟の確執を通して消防士の在り方を問うドラマが横軸になっている。
事件の種明かしはリアリティーに欠けるが、ベテラン調査官ロバート・デ・ニーロと新人消防士ウィリアム・ボールドウィンがバディを組んで捜査にあたり、服役中の放火犯ドナルド・サザーランドにヒントを請うなど、犯罪捜査サスペンスの面白要素が詰め込まれている。
実際に消防署の調査官が犯人の捜査まで行うのかは、知らないが。
人間ドラマは、重厚とは言えないが、熱い。
消防士としての高い資質を父親から受け継ぎ、炎を読むことができる兄のスティーブン。
子供の頃目の前で父親が殉職し、悲劇の少年として世の中の注目を集めた弟のブライアン。
兄に対して劣等感を持ち続けている弟という図式。
クライマックスは火災現場でのバトルアクション。
このシークェンスの最後に兄のスティーブンが言う「あれを見ろ!俺の弟だぜ、チクショウ!(Look at his.That’s my brother goddamn it.)」が、この映画のドラマ面を熱く締めくくる。
消防士という仕事は、職業に貴賤はないとはいえ、崇高な仕事の筆頭だろう。
9・11テロ事件では、人命救助のために命を落としたり重傷を負った消防士たちがいた。
カート・ラッセルとウィリアム・ボードウィンは、今なおアメリカの消防士たちのアイドルだという。
監督のロン・ハワードは、その後アメリカ議会に消防士の待遇改善を訴えている。