「人生を終わらせる死の存在が人の背中を押すときもある。」ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
人生を終わらせる死の存在が人の背中を押すときもある。
◯作品全体
後先考えずに夢へ突き進む権利は、基本的に若さの特権だ。狭いコミュニティの中で自分の力を過信して飛び出していく「無敵感」の描写は若さがなければ説得力がないし、自分の力量を知っているくせに無謀にも突進していく様子は爽快感よりも痛々しさが勝る。
しかし本作は若さという免罪符を持ち合わせていないが、痛々しさは感じない。きっとその理由は無計画に飛び出していったあとに起こりうる「なにもなかった」「失敗に終わった」という結末が死によって奪われているからだと思う。
大の大人が突っ走ったあとに訪れる結末は、特別な才能や運がない限り、取り返しのつかない挫折と長い長い虚無の時間だ。大人であればそれが非常に恐ろしいものだと知っている。だから大半の人は大なり小なり夢を抱えつつも、今ある生活と天秤にかけて、今ある生活を選んで生きている。だが、本作のマーチンとルディのような、虚無の時間を味わっている余裕すらない人間には後先考えずに突っ走る特権を得ることができるのだ。
二人は死が怖いと互いに口にするし、自分もそう思っていた。だが、本作を見ていると終わりを突き付けてくれることで、自分が本当にやりたいことに対して背中を押してくれる役割もあるのだと、死について少し違った視点を感じることができた。
◯カメラワークとか
・前半のテンポの良いカット割りと物語を動かすアイデアが楽しい。十字架が落ちることで酒の入った扉が開かれて主人公二人の関係を近づけるアイデアとか。
・病院へ向かうマーチンが駅でたばこを吸うカットのQTUがめちゃくちゃかっこいい。
・ラストの海のシーンの舞台と明度が素晴らしかった。二人が目指していた海は特別な海じゃなくて、天国でみんなと共感できるような、ありふれた海辺であるっていう。明度も良かった。空は暗くて、画面上部は影のように黒い。序盤に二人が話していた神々しい海はそこにはなくて、ただ目の前には現実の象徴のように暗く、なんの変哲もない海がある。それでも二人そろって海にたどり着いたこと、そのものに価値があって、それを二人がかみしめている。海と二人のバックショットだけのラストカットは、着飾らずとも二人だけの特別を伝えられるっていう監督の英断だと感じた。
◯その他
・明るい雰囲気の本作だけど、たまにマーチンが発作で倒れることで死が隣にいることを思い出せるのが良いな、と感じた。個人的にはルディももっとボロボロでも良かったかもしれない。まったく異なる人生を歩んできた二人が、最期は同じような状況で、同じように海を見て、そのときの景色を共有してほしい気持ちがある。
・地下室でマフィアに銃を突きつけられるシーンも最高だった。「命だけは助けてやる」で思わず吹き出す二人とか、短い時間で見せる手をつなぐ二人とか、二人の境遇を把握していて多くを語らず死に場を与えてあげるマフィアのボスとか。見たい画をちゃんとみせてくれるのが嬉しい。