ニノチカのレビュー・感想・評価
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共産主義を辛辣な台詞で笑い飛ばすルビッチ監督と女神ガルボの挑戦
エルンスト・ルビッチ監督のコメディ映画で、初めて笑う演技を披露したグレタ・ガルボが話題になり評判を呼んだ作品。1922年17歳で母国スウェーデン映画に出演し、ドイツのG・W・パプスト監督作「喜びなき街」を経てハリウッドデビューをしてから、1930年の「アンナ・クリスティ」の初トーキー映画では、キャッチコピーが“Garbo talks !”だったという。それから9年後のこのルビッチ作品まで“笑わない女優”を通して、キャッチコピーが“Garbo laughs !”に変わる。個人としては僅かにサイレントの代表作「肉体と悪魔」とトーキーの代表作「椿姫」しか観ていなが、ガルボの完璧な美貌と神秘的な雰囲気は別格だった。当時の日本では、その気品と美しさの極みに対して“神聖ガルボ帝国”という時代掛かった称号が付けられたという。グレタ・ガルボが如何にハリウッド女優の中で特別な地位を得ていたかを、淀川さんの本から切り抜いて紹介したい。
エリッヒ・フォン・ストロハイム(彼女は笑ったり泣いたりする必要がない。ただ、見つめるだけで、それで充分だ)
ウィリアム・ダニエルズ(ガルボは殆ど稽古をしないのに、流れるような柔らかな演技をみせる)
ミケランジェロ・アントニオーニ(女性美という不滅の価値を発見したいという気持ちをおさえ得ぬ人こそ、ガルボを見るがよい)
映画の達人たちの手放し状態の賛辞である。ただそこに居るだけでいいのに、顔を崩すくらいの笑顔を見たいとは思わなかった。この固定概念に挑んだコメディの巨匠ルビッチ監督が狙ったのは、このガルボが笑うシーンを見せ所として最高のシーンにすることだった。
先ず驚くべきは、ルビッチ監督に気に入られていた脚本家ビリー・ワイルダーと其の盟友チャールズ・ブラケット始め計5人共作の脚本の皮肉たっぷりな面白さだった。ソビエト連邦の共産主義を揶揄う辛辣な台詞を次から次へと繰り出し、比較する資本主義の経済と自由なイデオロギーの優位をストーリーの中で終始描いている。この比較はそのまま主演のガルボの恋愛心理に反映されている。共産主義を信奉する元軍曹の堅物役人の役柄から、ユーモアを知りお酒に酔い自由恋愛に浸る柔軟な女性に変化するヤクショーバ・ニノチカ。部下の商務局役人三人組が駅に出向かいに行き、登場する場面が粋である。特命大使を男性と思わせ声を掛けようとすると、その男性はハイル・ヒットラーと他の待ち人に挨拶をする。そして、ホームの奥に佇むニノチカが現れる。ホテルで偶然見かけた斬新なデザインの帽子も、後半の彼女の自由への憧れを象徴する。初めて見た時には、あんな帽子を女にかぶせる文明は滅びると、資本主義へのいじりが含まれていたのに。ニノチカがレオンとエッフェル塔の展望台でパリの景色を眺めるシークエンスでは、エレベーターのレオンよりらせん階段を登るニノチカがより早く着くのがあり得ない可笑しさ。この場面で完全な喜劇のスタイルを宣言したようなものだろう。洒落た台詞と機知に富んだ皮肉。庶民的なレストランでニノチカの心をほぐす為にジョークを語るレオンの努力も虚しく、周りが笑うコーヒーのクリームの品切れ話に反応しないニノチカに怒るレオン。不満たらたらなレオンがこけて急展開。本当の可笑しさは、予期せぬ失態にあり。それまでのイメージを払拭させるくらいのガルボの笑い方だった。ルビッチ監督の狙い通りの笑顔が映画史に遺ることになりました。
但しロマンチックコメディとしての良さは、全開ではない。後半の特にソビエトに戻ってからのニノチカには、遠く離れて思いを寄せる女ごころがもっと出ていいのではないかと思った。アイナ・クレアが演じたスワナ伯爵婦人が偶然居合わせたレストランでみせる女の嫉妬と対抗心がいい。ルビッチ監督らしい心理描写。愛人レオンがうつつを抜かす女性を軽蔑していた伯爵婦人が、ニノチカの美しさに触れて動揺する様子から、貴族の振る舞いで対峙する女の意地が伝わってくる。
グレタ・ガルボの経歴を調べて驚いたのは、殆ど浮いた話はないと思っていたら何と「オーケストラの少女」でお馴染みの名指揮者レオポルド・ストコフスキーとは短い期間だったが親密であったことが記されていた。フィラデルフィア管弦楽団の耽美的に極めた音楽で名声を得た完璧主義の音楽家だったストコフスキーが夢中になる、完全なる美。それと若い頃には「西部戦線異状なし」でポールを演じたリュー・エアーズと共演した時には、年下のエアーズをとても可愛がったとある。役柄からではなく、ひとりの女性としてガルボをみた時、男性に媚びたり男性に頼る女性には見えない。そこがもう一人のスター、マレーネ・ディートリヒと違うところ。毅然と佇む女神のような女優の演技を私生活にも引き摺ったのでないかと想像します。一つ残念なのは、1969年頃に「魔の山」と共に映画化を模索していたルキノ・ヴィスコンティ監督が、「失われた時を求めて」にガルボの出演を願ったこと。映画界からは完全に引退していたので叶わぬ夢物語と分かっていても、もしもと思ってしまう魅力に未練が残ります。
『ポーランド兵が死ぬ前にもキスしたわ』グレタ・ガルボの台詞。
『ポーランド兵が死ぬ前にもキスしたわ』グレタ・ガルボの台詞。
反共映画かもしれないが、まだ、スターリンもヒトラーも台頭したばかりのトキ。
『所有権を争えば、フランスとソ連との間に2年は争うことになり、その間、人民が飢える。』と言うセリフがあるが、正にその通りになる。戦争が始まる。それを予見している。
お抱えの執事を売って、ヤギミルクを手に入れるなんて、実に洒落ていると思う。つまり、経済五カ年計画のことが語られるが、資本主義側からは、まだ、その点を見定めている時期だったと思う。つまり、社会主義の良い部分ととらえていたと感じる。だから、ロイヤルスイートで食事する事を嫌い、普通のレストランで食事を楽しもうとして、初めて、グレタ・ガルボは笑う。
戦後にこの映画を作れば、ビリー・ワイルダーは赤狩りにあったと思う。
『ゴートミルク フォーヘルス』って標記されている。傑作だ。
同志諸君!これがマルクス・レーニン主義的に正しいツンデレの姿だ!
パリの地で、笑うことも許されない寒い国からやって来たキャリアウーマンをナンパ貴族のレオンが攻略するけれど、ツンドラの凍土のごとくガチガチにハートが凍ったニノチカには全く通用しません。
それでも資本主義社会の面子を背負ったレオンは諦めることなく口説き続けてニノチカの心を開くことに成功します。しかしデレたニノチカは酔うと演説を始めるようなお騒がせ美女なのでした。でも、ソビエト連邦って何?とかいう世代には、もうこのノリは理解できないのかも。
夢の日々が終わり、寒い国に帰ったニノチカを待っていた生活、これが浮かれていた視聴者を突き落とします。エリートのはずのニノチカですら、住まいは男女間のプライバシーもないような粗末な家で、パリで処分できなかったランジェリーがこの地では宝物扱い。面白おかしいロシア女だったニノチカに本当の共感と同情が集まる瞬間ではないでしょうか。
鉄のカーテンに閉ざされて自由のない異国の地に、大好きになってしまった人が囚われているという悲しみを感じ取ってもらえるでしょうか?
グレタ・ガルボが絶妙
ニノチカを演じたグレタ・ガルボが絶妙。ソ連で活躍した女性はこうだったに違いないという感じ。
話し方などの雰囲気に加えて年齢も、責任ある仕事を任されたあの時代の女性に相応しくみえる。
ソ連に帰ってからは、あくまでもソ連国民としての信条を維持しつつ、パリへの憧れを胸にしまい、ソ連での生活に順応しようとする。
ブリヤノフ、アイラノフ、コパルスキーの3人がかわいい。
イスタンブールでロシア料理のお店を出すという結末も良かったと思う。ニノチカの亡命やレオンのロシア行きより映画として良かったと思う。
共産主義女史の大人の恋・・・ロマンチックな作品
大人の男女のラブストーリー。
パリとスターリン政権下のロシアとの文化の違いを
ユーモラスに描写。
生真面目なニノチカが、戸惑いながらも惹かれる様を、グレタ・ガルボがキュートに演じていた。
モノクロ映像が美しい。
BS - NHKを録画にて鑑賞
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