トラベラー

劇場公開日:

トラベラー

解説

イランの名匠アッバス・キアロスタミが1974年に製作した長編デビュー作で、サッカーの試合を観戦するため悪戦苦闘する少年のおかしくも切ない冒険を瑞々しく描いた人間ドラマ。小学校に通う10歳の少年ガッセムはサッカーに夢中で、宿題も授業もさぼりがちとなり先生や母親に叱られてばかりいた。首都テヘランで開催される大事な試合をどうしても観に行きたい彼は、交通費とチケット代を手に入れるため、家の金を盗んだり友人たちを騙したりと、あの手この手でお金を稼ごうとするが……。特集企画「そしてキアロスタミはつづく」(2021年10月16日~、東京・ユーロスペースほか)にてデジタルリマスター版を上映。

1974年製作/72分/G/イラン
原題または英題:The Traveler
配給:ユーロスペース
劇場公開日:2021年10月17日

その他の公開日:1995年9月16日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

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(C)1974 KANOON

映画レビュー

5.0いたいた!こんな子(笑)

2024年12月28日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

キアロスタミ監督さん、
純粋で いたいけな子供ばかり撮ってたわけではありませんでしたね!

「友だちの家はどこ?」を観たばかりで、ナイーブな少年像にしんみりとしていた僕ですが、
bloodtrailさんからのお薦めコメントで、本作を覗いてみました。
ホントだ、カウンターアタックでした。確かに《ぶん殴りたくなるような困った子》ですわ(笑)

学校から戻ると
お洗濯しているお母さんに「宿題宿題!」とガミガミ言われて、
「お父さんに叱ってもらうからね」と脅されるし、
学校の先生はいつも通りに高圧的で恐ろしい。
家庭環境のベースは監督さんの他の作品とも共通ですが、
本作品ではそうとうの悪ガキくん登場で、始終笑かしてもらいました。

そろそろ声変わりも近い6年生ごろか? 否、ガッセムくんは落第をしているから本当は中1あたりかもしれない。でも落第でまだ格下の小学生という情けない立場。
可愛い子供の盛りを過ぎて、思春期に差し掛かろうかという宙ぶらりんの姿なのです。つまり、
《一番子供が可愛くない時期》にギュギュっとフォーカスです。

皆さん
ヒヨコを育てた事はおありですか?
ニワトリのヒヨコは、小さいときはピヨピヨと丸くって、黄色いクリーム色で、あのフワフワが可愛いことこの上もない。
でも立派な雄鶏になる前の変わり目、“端境期”の若鶏ってもんは、まったくあれはみっともない格好です。
体は白くなり、図体は大きくなってはきても、声は みっともなくピヨピヨと鳴く。トサカはまだ小さくてひな鳥のまま。あの時期はヒナは大人なのか子供なのか分からない季節。
不格好で実に見栄えが悪いのです。
可愛くない盛りのガッセムくん。
ちょうどあの頃の少年の様相なんですよねぇ。

でも映画が進むとガッセムに肩入れしたくなる。応援したくなる。
弱いチームを推すサポーターの気分にさせられる。
親たちを困らせる「反抗期と自立心萌芽」のシーズンの、なんと魅力的な事か。

でもあの子、帰宅したらものすごく怒られるんだろうなぁ・・苦笑

・・・・・・・・・・・・・

アッバス・キアロスタミ監督は
もし映画監督になっていなければ、彼は幼稚園の保育士か小学校の先生になっていれば最高のキャラクターと思います。
キアロスタミ・ニキと呼ばせて頂きます。
一生ついて行きますぜ。

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共感した! 2件)
きりん

5.0傑作ですな

2024年8月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

血の通った、いきいきとした作品で、映画を観ているということを忘れてしまうくらい素晴らしかった。

まず、映像がひじょうに魅力的である。一つひとつのシーン、一つひとつのカットがとても力強い。
まるで往年の名写真家が撮影したような、深みのあるしっかりとした画(え)の連続によって、この映画は構成されている。
その映像からは、異国の空気がリアルに感じられるような気がした。

それから、情報量を絞ったモノクロームの映像で表現することにより、本作の推進力になっている少年の欲望や好奇心がよりダイナミックにストレートに伝わってくるようにも感じた。

そして、主演のハッサン・ダラビ。
名立たる俳優がふっ飛んでしまうような見事な演技!

映画の魔法にかかり、知らぬ間に僕はあの悪ガキとともに「トラベラー」になっていたのだった。

ところで、この教訓的な物語の根底には、やはりイスラムという宗教が影響しているのかな?

追記
なんで「ALLTIME BEST」に選ばれてないのかな?

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peke

4.0近さと遠さのなかで

2022年5月29日
iPhoneアプリから投稿

監督の処女長編ということで、後年の代表作と比べるとスタンダードな映像表現が多い。アッバス・キアロスタミもモンタージュとかやるんだ…と妙に感心してしまった。

しかしそんな中でもハッとするような唯一無二のショットがいくつもある。主人公の悪ガキ2人が壊れたカメラで学校や近所の人々を撮っていくところなんかごく普通の人が次から次へと映し出されていくだけなのに、迫り来る生の躍動感に圧倒された。悪ガキの心に後ろめたさを投げかけるものとしてはこの上なく説得力があったように思う。

それから試合の終わってしまったサッカースタジアムを悪ガキが途方に暮れながら歩いていくシーン。そしてそれを俯瞰で捉えるカメラ。しかし完全に突き放すわけでもなく、悪ガキの動きに合わせてほんの少しだけ画角が調整される。この距離感がいい。

アッバス・キアロスタミが撮り上げる子供はちゃんと子供に見える。それは子供に近づきすぎもしなければ遠ざかりすぎもしていないからだと思う。近すぎれば過度に感傷的なホームビデオになるし、遠すぎれば監視カメラの録画映像と見分けがつかない。確かなバランス感覚がないといけない。

思えば小津安二郎の『お早よう』も卓越したバランス感覚があった。しきりにテレビを欲しがる兄弟の姿は、親からしてみれば鬱陶しくて仕方がない。あるいは全くの他人からしてみれば路傍の石ほどどうでもいい。だから小津はその中間を狙い澄ます。テレビを欲しがる兄弟を遠巻きに笑いながら、一方で彼らの切実さに思いを馳せるような、絶妙な地点を探り当てる。

本作も同様だ。悪ガキの反社会的な行動は、親教師からしてみれば不愉快この上ないが、一方で「何としてもサッカーの試合を生で見たい」という彼の心境も理解できる。そういうどっちつかずのシーソーゲームに観客もろとも巻き込んでしまう技量がアッバス・キアロスタミにはある。

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因果

4.0もう。すでに。終わってる坊や。

2022年5月8日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館
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bloodtrail