「見所は戦闘シーンではなく、作戦の準備の部分にこそあると思う」遠すぎた橋 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
見所は戦闘シーンではなく、作戦の準備の部分にこそあると思う
「あの橋は遠すぎた」
史上最大の作戦にも勝ろうという大作戦の実施責任者の将軍が最後に簡単に切って捨てる
後方の安全で快適な邸宅風の司令部の居室の椅子にふんぞりかえっていうのだ
それも8,000人の部下を失った現場の指揮官の前で吐き捨てるのだ
大軍団を率いて後1マイルまで迫りながら、これ以上は無理とその指揮官の部隊の奮闘を見切った男だ
そして上は9割方成功したと満足していると大失敗までを湖塗し、それを認めさえしない
しかし彼の目はおどおどと泳いでおり決してそうは思っていない
そして次のシーンはその指揮官が負傷が重く撤退できずに残してきた敗残兵達にドイツ軍が迫るシーンとなる
その言葉を彼らが聞いたなら一体どう思うのか?
彼らはもはや完全に打ちのめされて無力感に放心状態になっており、自然に合唱となる讃美歌が哀れだ
そしてホルスト夫人と子供達が家財道具を載せた台車を牽く医師とともにあの美しかった邸宅が見るも無残に銃火で砕かれてしまい、そこから夕焼けの中をとぼとぼと逃れていくシーンで終わる
一握りの指導的立場の人間が甘い考えで大きな事業を起こそうとする時、その配下の大勢の部下だけでなく、ホルスト夫人が代表する周囲の人々まで、果ては平和で美しかった町々が丸ごと破壊され瓦礫と化してしまうその恐ろしさ
作戦の無謀さを知らせる貴重な情報を折角探ってくれたレジスタンスの少年までも銃火に倒れてしまう皮肉もまた虚しい
本作は作戦の準備、実施、結末の三部で構成されている
勇ましい戦闘シーンはその実施の部で、結末の部では一方的に連合軍がやられるだけのシーンが続く
物量と描写は戦争映画の中でも一二を争うものだろう
しかし見所は準備の部分にこそあると思う
現場の誰もがこの大作戦に危惧を抱き不安を覚えながら強硬に反対もできず、なし崩し的に作戦が実行されていく様は胃が痛くなる
このようなことは大きな組織の中枢に近いところにいた者なら誰もが経験することだろう
もしなければ大変に幸運か、これから経験するかだ
これから大きな組織の幹部に連なろうという若い人にこそ見て頂きたい映画だ
反面教師になるはずと思う
手柄を直ぐに挙げたくて調子の良いこという新任の経営幹部や、いい加減な目論見を経営幹部に吹き込む胡散臭いコンサルタントのプレゼンに疑問をぶつける、その勇気を持つ助けになると思う
本作の意義はそこにこそあると思う