「ベトナム戦争を南ベトナムの女性の視点から描く」天と地 parsifal3745さんの映画レビュー(感想・評価)
ベトナム戦争を南ベトナムの女性の視点から描く
オリバー・ストーンは、決して支配者層におもねることをしない監督。ベトナムに米軍が乗り込んだ戦争で、実際に何が起きたのか、南ベトナムの若い女性の視点から描いた貴重な映画。ベトナム戦争を知る上で、目を背けてはいけない映画だ。戦争は戦士の視点だけで語られるべきでない。
フランスの支配が終わったら、北ベトナム軍がやってきて、その後に米軍がやってきた。レ・リーの家族内での戦う意義は、「自由のために」「祖国を取り戻すため」という内容だった。決して、資本主義も社会主義も出てこない。独立のためであり、民族自決のために立ち上がったのだ。
ベトナムの民の生活は、自由が奪われ、搾取されてきたのだ。
米軍の攻撃は容赦がない。兵士が襲撃されると倍になって返ってくる。米軍の支配は、ベトナム人を使って行われる。これも植民地の原則。支配する側に敵意が向けられないようにするためだ。スパイ容疑で捕まると、拷問を受け、母がやっと賄賂で救い出したかと思いきや、次は北の兵士に南のスパイと疑われ、レイプまでされる。悲惨としか言いようがない。
南のサイゴンは米の資金投資で腐敗している。米軍相手の商売が横行、体を売る女たち、成金になって豊かな生活をする商人たち。金持ちの主人に雇われ、身籠って里帰りをするレ・リー。結婚する前に子を宿したと白い目を向けられ、母と一緒に実家を出てサイゴンへ。スティーブに口説かれ、貧困を脱して、子どもたちや姉と米国へ移住する。米国での生活は何不自由ないように見えたが、それも最初だけ。ベトナムの民は飢えているのに、米国の女性たちは、肥え太っている。この富を生み出すために、戦争が行われているのだという対比が何とも言えない。スティーブは、ベトナムでの特殊任務のため精神を病んでいて、夫婦仲は悪くなっていくばかり。アジア人に対する偏見、差別もかなりのもの。
戦争が、戦争の当事者の国々、戦争でボロ儲けをする国にどんなことをもたらすのか、一人の人間の視点と体験を通してみているのが良い。
夫、スティーブ自体が、アメリカという国を表しているかのよう。最初は、優し気に近づいてくるが、より金を儲けるために良心を悪魔に売っていて、そのトラウマや罪悪感、自己中に悩んでいる。最後は、自殺を選ぶ。一番の問題は、工作員を送って戦争の原因を捏造し、政治力を使って戦争に駆り立て、相手国を悪魔のように喧伝し、戦争でボロ儲けを企む奴らだ。しかし、それを描く映画を、製作することが許されていないのだろう。
最後のレ・リーの言葉が表題に繋がっているようだ。「私は、いつも中間にいる。南と北、東と西、平和と戦争、ベトナムとアメリカ、そういう運命なのだろう。今は天と地の間にいる。運命に逆らえば苦しむが、受け入れれば幸せになる。人は永遠に続く時間の中で過ちを繰り返す。だが、過ちを正すのは一度で十分だ。悟りの歌が聞こえてきて、憎しみの連鎖は永遠に終わる」「全てに因果があるのなら、苦しみこそが人を仏に近づけるのだ。」という言葉だったと思う。
よくあるハリウッド製作の戦争・アクション映画の誰が悪で誰が善ではなく、東洋の仏教的な考え方、自分が問題を解決しなければというところに違いがあった。相手に責任転嫁しないのが違いだ。
ベトナム人の視点から描いたベトナム戦争の映画はなかったということで、是非見てほしい映画。このような映画の評価が高くなるような世の中になってほしいと願う。