「ある女性の劇的なる半生」天と地 Bell_rayさんの映画レビュー(感想・評価)
ある女性の劇的なる半生
天と地(93年・アメリカ)
いつもの如く、家族が借りてきた作品だ。原題がHeaven & Earthだとはいえ、この工夫のない邦題はいかがなものか。日本では海音寺潮五郎の小説(「天と地と」)と角川映画のイメージが強いから、タイトルだけでパスした人はけっこう居たかもよ。
鑑賞前に、オリバー・ストーン監督(しかもベトナム戦争もの)だと知る。きっと暗い内容だろうなあ…と想像。その予感は当たりだった。
ベトナムの農村風景がとても美しい。田園で働く人たちの姿も美しい。
しかしこの村は、日中は政府軍の影響下におかれ、夜はベトコンに支配される。比較的裕福だった主人公レ・リーの実家は田畑ともに焼かれ、家族の分裂が始まる。生活を破壊される農民たちの腹立たしい思いが、数分のシーンで表現されている。兄二人はベトコンに身を投じたものの母は処刑されかけ、スパイの疑念をかけられたレ・リーは政府軍から拷問を受ける。とにかく映画の前半はひたすら暗く重い。
母や姉と一緒に田舎を捨てて都会に出たものの、出来ることは限られる。姉は娼婦に、母とリーは住み込みの家政婦・子守りに。安住の地をみつけたと思いきや、リーは男前の旦那様と恋に落ちて妊娠。母ともども、奥方に追い出されるハメとなる。
母娘の関係が端的ながらリアルに描かれている。母はリーを傷つける言葉を投げつけると思えば、軍から助けてくれたり一緒に街を出たり、だが例の一件からリーを置いて故郷に帰り、最終的には立場を分つ。立場や体面、先祖の祭祀などを気にし行動の指針とする母は非常に東洋的だ。
2時間を超える長い作品だが、そのわりには端折り過ぎに感じた。この劇的な半生を描くのに削れるエピソードはないと断じたのかもしれないが、たくさん盛り込んだはいいが何が言いたいのか分かりにくくなってしまった。リーが自分の感情をさらけ出すのは、アメリカに渡ってからだ。ああ、もしかしたら洋の東西の違いを際立たせるために、ベトナム時代のリーにはあまり意見を言わせなかったとか…?