「汚い方のレオン」タクシードライバー tokyotonbiさんの映画レビュー(感想・評価)
汚い方のレオン
主人公は戦争帰りの元兵士、帰国してタクシードライバーを職にする男性。
売春、薬物取引、裏社会の人間達などを目にして車道を運転する主人公は鬱屈としていく。
一人の女性ベッツィに恋をして、ボランティアとして彼女の会社に入り込む。付き合いを続けるものの、デートコースにポルノ映画を選んで付き合いが切れる。そのうち、大統領候補をスピーチの場で襲うという計画を立て始めた。
途中売春している幼い家出少女アイリスと知り合いになり、少女の売春を止めるよう説得しつつも、主人公はテロの準備をする。
最後テロは失敗し、代わりにアイリスの娼館を襲い、支配人やバイヤーを殺害した。
結果、彼は未成年売春を止めた英雄になり、帰郷したアイリスの親から感謝の手紙が届いた。
彼は退院後、元のタクシードライバーとして働く。
人と接する主人公の姿はまるで映画「ナイトスクープ」の主人公のような薄ら寒い信頼のなさを感じた。
アイリスに宛てた手紙の主人公の拙い筆跡、虚栄心を見透かすような大人(大統領候補とベッツィ)の目と言葉、手紙やアイリスにつく卑しい嘘の数々(ベッツィという付き合ってる女性がいる、麻薬捜査官でタクシードライバーは捜査のため等)が人間模様が濃くて見ているこちらを抉ってくるよう。
政治や難しいことは理解できないけど、周囲に嫌気が差していて、本人は非常に内気、だから誰にも相手されない。それが辛いから体を鍛えて人を襲おう。
好きになれない主人公だ。
誰かと繋がりを持ちたい、他人に必要とされたい、自分を認めてほしいという素朴な欲求のはずだけど、どうにもうまくいかない。
独りよがりで、人間にも社会にも不満と恨みを持ってテロの準備をし、ますます孤独になってく様子は哀れさよりも危険人物としての危うさが目に映る。
誰かを助けたような、何かを成し遂げた人間になりたいんだろうなというのが見ていて伝わる。
同い年の大人やポルノ映画を見に行かないような生き方の人間には相手にされず、一回りは年下だろう子供相手でようやく喋れた姿はいたたまれない。
「どうして分からないんだ」は少女だけじゃなくて自分以外の人間と社会に向けた言葉のようだ。
結局、大統領候補の人間を襲撃することも叶わず、アイリスのいる娼館を襲って支配人やらを殺していく。
彼は本気でアイリスを助けたいと思ったわけじゃない。それなら、殺人を犯した後に拳銃自殺しようとはしない。弾切れで出来なかったけど。
当初言っていたように、「逃げよう」とアイリスを連れ出して家に送ったと思う。
主人公にとってアイリスは可哀想な犬猫と変わらない。可哀想な境遇を偶然知ったというだけだ。
大勢の前で権力者を殺害した有名人か、娼館を襲った人間になるかの分岐で、彼は結果的に未成年売春の現場を明らかにして少女を助けた形になった。
殺人で刑務所行きでも全くおかしくないと思う。
ラストのベッツィを送り届けた後のルームミラー、あれは何だろう?彼はヒーローになっても全く変わっていない、満たされていないように見えた。
今見てみると、こうしたどこか鬱屈した心を溜め込み、苦しむ人はどこにでもいて、周りとの繋がりもうまく行かず、最後最悪の形(テロ)で発散する、とまでいく人間が出てくるかもしれないというメッセージを感じた。主人公が、日常に密接してるタクシードライバーだからなおさらだ。