「帝国の下の少年の捕虜生活の話」太陽の帝国 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
帝国の下の少年の捕虜生活の話
総合:70点 ( ストーリー:70点|キャスト:75点|演出:80点|ビジュアル:80点|音楽:70点 )
内容の薄い娯楽作品の制作では成功していても、アカデミー賞を獲れる高品質の映画は撮れない。そんなスピルバーグ監督が、アカデミー賞狙うために制作した『カラーパープル』の失敗をうけて再びアカデミー賞に挑んだとも言われる作品。残念ながら今回も受賞はならなかった。
何でもかんでもお金持ちの父の権威を頼んで「僕のお父さんが・・・」としか言わなかったちょっとしたスネオのようないけすかない少年が、といってもその年齢とこの状況ならばそうであるのも当然ではあるが、父親のいない世界では自分しか頼るものしかないことに気がつき変わっていく。あっという間に全てがひっくり返った激動の時代に、厳しい状況をくぐり抜けて成長する。もう彼から「僕のお父さんが」という言葉が発せられることはなく、自分の力で何かをしようとする逞しさを身につける。美術にはかなり金がかかっていて、映像は良く出来ているし迫力もある。
だが重慶のような中国内陸部で戦っていたはずの1941年に沿岸部の上海近郊で零戦が撃墜されていたり、九州からではなく戦場から遠い中国から特攻機が出撃していたり、さらに中国から長崎の原爆の光まで見えてしまう。歴史考証には不満があるし、少年の捕虜経験だけでは作品の主題として弱いと考えて深刻な小話をいくつか無理やりねじ込んだできたのだろうが、物語を盛り上げるための事実の歪曲が行き過ぎている。
生活がひっくり返った場面や捕虜生活の描き方は質感が高かったが、わざわざ『太陽の帝国』と銘打った戦争を背景にした大作映画としては話が小さかった。日本のする戦争の話と少年の話にはあまり関連はなく中心はただの捕虜生活の話であり、そのあたりのせいもあって見終わっても感動が薄い。