「架空の代筆で生計を立てる中年の女は、ある日離れて暮らす主人に手紙を...」セントラル・ステーション supersilentさんの映画レビュー(感想・評価)
架空の代筆で生計を立てる中年の女は、ある日離れて暮らす主人に手紙を...
架空の代筆で生計を立てる中年の女は、ある日離れて暮らす主人に手紙を書いてくれという母子と出会う。「飲んだくれのあんたのことは嫌いだけど息子が会いたがっている。」彼女はそう言う。黙って仕事をする女だったが、実は手紙はすべて彼女の家のタンスに仕舞われていた。翌日も現れた母子は手紙の内容を改めたいという。素直に「会いたい」と書いてくれという母はその直後、バスに轢かれて死んでしまう。
母を失い、ストリートチルドレンになる男の子を気にかけた女は、男の子を連れて帰る。でもそれは善意からなどではなかった。万引きした男をその場で撃ち殺すチンピラの紹介で、人身売買をしている夫婦に少年を差し出し、カラーテレビを持ち帰った女だったが、友人の叱責もあって自分のしたことを後悔することに。
命がけで少年を取り戻し、実父のもとへ逃避行を続けることになった二人は、次第に心を通わせていく。金もなく行くあてもなくなった二人だったが、少年のアイデアで代筆業を再開しやがて実父の息子たち、少年の兄達のもとに辿り着く。愛し合っていた事実。支え合う兄弟の姿に安心した女は、少年をおいて一人旅立つ。
とてもいいロードムービーだった。すぐに騙すし、すぐに嘘をつく。悪の見本のような女だったが、優しい気持ちがないわけじゃない。そういうとっても人間的な中年の女と、まっすぐな少年の瞳。滲むような色合い。バグダッドカフェやスラムドッグ、パリテキサスのような色の鮮烈さがいつまでも記憶に残っている。人間はこんなにもいい加減で弱くて、だからこそ愛すべき存在なのかもしれない。バスの中、号泣してしまう女の涙と、バスを追いかけ続けた少年の必死さ。あの高ぶりこそ人間の心のリアルな姿なのだろう。