劇場公開日 1958年8月26日

「演技とショットの融合」戦争と貞操(1957) neonrgさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 演技とショットの融合

2025年8月19日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

『鶴は飛んでゆく』(1957年、ソ連)は、第二次世界大戦下を生き抜いた一人の女性ベロニカを通して、人間の弱さと贖罪、そして民族的な昇華を描いた作品です。

まず印象的なのは、彼女の心理とカメラの動きが完全に一体化していることです。演技だけに依存するのではなく、走ればカメラも走り、絶望すれば画面も歪み、群衆に溶け込む時はクレーンで彼女を群れの中へと運んでいく。演技とショットが融合することで、観客は「ヴェロニカを見ている」のではなく「ヴェロニカそのものを生きる」体験をします。群衆の中を抜ける長回しの撮影や、ボリスが螺旋階段を駆け上がる場面は、その象徴的なシーンだと思います。

物語の中心には、彼女が婚約者を裏切ってしまう「弱さ」があります。しかしこの映画は彼女を断罪するのではなく、最後に彼女が花を群衆に分け与えることで「悲しみを共有する」という形で自己を赦し、共同体の中へと昇華していく姿を描きます。その瞬間、個人の物語は民族全体の寓話へと変わり、観客は自分自身の戦争体験と重ね合わせることになります。

ラストで彼女は「許される」のではなく「自らを許す」ことによって、はじめて周囲と一体化する。その背後には「神の存在」や「鶴の象徴」が透けて見え、虚無ではなく希望へと結ばれていきます。これは戦争に「勝った国」だからこそ描ける視点でもあり、敗戦国の日本やドイツには不可能なラストだと強く感じました。

戦争を憎みながらも、犠牲を民族的な希望へと昇華する――その映像的・倫理的ダイナミズムこそが、この映画を単なるメロドラマではなく、世界的傑作に押し上げていると思います。

鑑賞方法: Blu-ray (4Kリマスター)

評価: 95点

neonrg