「望と静寂」ストーカー(1979) ordinalさんの映画レビュー(感想・評価)
望と静寂
真の欲望が叶うことよりも、倫理の上にある小さく善良な希望を己の望みだと信じることこそが生きる上で精神的に大切である、というメッセージが受け取れる。つまり、誰しも非道徳的な欲望が心の底に渦巻いていて、それに直面し真の望みを知って受け入れることは大変苦しいため、人は皆自分の真の欲望を認識できないものなのかもしれない。
何かの荒れた跡地である危険地帯zoonは静寂に包まれ時空が宙ぶらりんになったかのような空虚な無の場所である。文明は浅い水の底に沈み、唯一の生命体である黒い犬さえ影に見える。こんなところの奥地に願いが叶う場所など本当にあるのか。roomの内情は死んだ億万長者しか知らずStalkerさえも入れないなんて、本当はそんなものは無いのではないだろうか。所詮、人は皆、日々幻想を抱いて生きているものだろう。
精神的主題はもちろんのこと、それ以前に、音と画面構図と撮影地が素晴らしい。まずあらゆる場面で“水”が大変良い仕事をしているし、柱や柵越しの長回しで場面展開を傍観する部分や画面中央を大きく陣取る頭を中心に広い周囲の状況を想像させる部分、逆に壁を広く映して画面中央の四角の中だけで人物を動かす部分など、静と動のコントラストを強くした場面の画面構図におけるバランス感覚に度々酔いしれてしまう。roomのある(とされる)建物や下水が通ってそうな筒状の道、ひとけの無い線路を走る荷物用?らしき小さな乗り物、極めつけは砂がボコボコした広場!あれに関してはチームラボの足を取られるクッションのゾーンを思い出したし(映画の方がずっと前だが)、精神・哲学・アート的映画でありながら、しっかりアドベンチャーでもある。
画面の色味の違い、コップが動く現象、娘の不気味さなどが何を表しているのかが分からなかった。