「心の傷を持つ少年たちの大冒険」スタンド・バイ・ミー Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
心の傷を持つ少年たちの大冒険
総合95点 ( ストーリー:95点|キャスト:95点|演出:80点|ビジュアル:80点|音楽:85点 )
子供時代を上手に描いた作品は他にもあるが、本作がその中でも白眉である理由は、傷ついた少年たちの壊れやすい心が描かれているからではないだろうか。嘘をついて大人の保護下を逃れて子供たちだけで始めるいけない大冒険は、しばしば少年が大人になっていく過程で必要なものだが、今回の冒険はただのちょっと危険で楽しい冒険に収まるものではない。彼らが打ち明けられなかった秘密を打ち明け心の傷を晒しその痛みを共有していくことで、少年たちの力ではどうしようもない解決できない問題を、物理的にではなく心理的に解きほぐしその中に救いを見出すことが出来たのだ。
そんな経験を持つことが出来、だからこそ彼らは「あの十二歳のときのような友達はもうできない(I never had any friends later on like the ones I had when I was twelve. Jesus, does anyone?)」貴重な友人たちなのだ。
信頼していた大人に、クリスが家庭環境の悪さで軽く見られて裏切られて涙を見せる。年上の不良にも立ち向かいたたき伏せられても芯は折れない。そんな強くて頭が良くてみんなを引っ張っていた頭目格だったクリスが、心の傷には耐えかねて流す涙の繊細さ。
そしてそれを知って、優秀な兄が死んだ後で親に「死んだのがお前だったら良かった」と言われた自分一人が心の傷を背負っていたのではない、強そうに見える人でも誰もが傷を抱えているものだということを悟り絆を強めゴーディも癒される。まだ誰も起きだしていない早朝の野性の鹿との邂逅が、昨日までの悲しみを洗い流したかのような清々しさをもたらしてくれる。
この告白から朝までが、私がこの映画で最も好きな場面である。
四人の少年はそれぞれに個性的で魅力があるのだが、やはりクリスを演じたリバー・フェニックスが飛びぬけている。美少年ぶりといい強さといい繊細さといい、彼は全てを持っていた。この映画だけで彼の存在を世界に知らしめるには十分だった。ジェームズ・ディーンさながらに若くして死んだことが彼を伝説的な俳優としてしまったが、やはりもう少しだけ長生きしてもらってもう少し出演作を見ていたかった。憎たらしいいじめっ子も存在感があったが、彼がキーファー・サザーランドだったのは気づかなかった。
撮影場所になったオレゴンの自然に囲まれた美しい風景と当時の古い田舎町の風景が(原作ではメイン州が舞台)、小説家となった主人公ゴーディだけでなく、オレゴンなど乗り換えで空港しか使ったことがない私の郷愁感をもかきたててくれる。ベン・E・キングの歌う「スタンド・バイ・ミー」をはじめとして、当時の流行曲が流れる音楽の使い方もうまい。やたらと超常現象が登場してわけがわからなくなるスティーブン・キングの原作の中で、それなしで純粋に少年たちを描き出した物語も秀逸だった。俳優は言うに及ばず。
すべてが高い質を保ってまとまった傑作である。視聴者のそれぞれの子供時代を思い起こさせ共感を呼ぶから余計にのめり込むのだろう。