「生い立ちガチャを乗り越えろ!」スタンド・バイ・ミー movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
生い立ちガチャを乗り越えろ!
クリス、ゴーディ、テディ、バーンの少年4人の大冒険。
冒険と言っても、地元オレゴンのキャッスルロックの不良達の話を盗み聞きして仕入れた、観光に来ていた少年ブラワーの遺体があるという場所に確認しにいく旅。
小6で、そこそこ産まれも将来も見えてくる年齢。
クリスはもう、自分はこのキャッスルロックで不良として生きる産まれなのだと悟っている。盗みを働いた後、誰にも話も聞かれない、そんなはずないと思ってくれる人もいない、元々不良のフィルター越しにしか見られない苦悩を抱えながらも悟っている。
だから、親友ゴーディが、両親がゴーディではなく一心に期待していたスポーツ万能で優しい亡き兄にしか愛情を注がない孤独に気付き、ゴーディにも作家の才能がある。親が気付いていないだけだと何度も伝えてくれる。
テディはフランス系で、ノルマンディ戦で活躍した父を持つが父は精神を病んでしまい、テディの耳をコンロで焼いたり、精神病院に入ったりの家庭。父親の栄誉を守らないと、自身の存在否定に繋がってしまうからか、周りがなんと言おうといつも父を庇う。
バーンは少し思考が幼い。兄達は既に不良になっているが、行く末を変えるほどの気力を持ち合わせていない末っ子キャラ。
4人で家を出て、井戸で水を汲み、ひたすら線路沿いに歩き、一晩寝て、沼と森を突っ切り、ついに遺体を発見する。
その道中は少年4人には未知の不安に溢れていて、長い時間みんなで歩く事で、それぞれの複雑な感情と向き合い、友達として励ます、助け合いながらの時間となった。
アウトドア力、生活力などでは語り尽くせない、人生で乗り越えなければならない、背負っている己の負の感情に気付き、話し、向き合い、打破する力をこの2日間でクリスとゴーディは得た。
自然の中だと悩みなんて不思議とちっぽけに思える。のような謳い文句の子供達のサマーキャンプやYMCA合宿のような企画はよくあるが、その何百倍も濃い経験をこの少年達は大人抜きで、自分達のお小遣い2ドルだけですることができた。
そして、彼らが乗り越えようと対峙しているのは、ややハズレ気味の生まれガチャ。
この度のお陰で、ゴーディは本当に作家になった。子供も2人いて、立派に食べていかれているようだ。クリスは、ゴーディの言葉のお陰で、職業コースまっしぐらの自分を諦めずに、頑張ってゴーディと同じ進学クラスに進み、弁護士になった。喧嘩の仲裁で刺されて即死したらしいが、自分で選び取った人生を拓けた。
テディは刑務所に入ったりもしつつ、キャッスルロックで仕事に就いていて、バーンは製材所で働きながら4人の子持ちになった。
みんな、周りに流された不良の道を辿らず、自分の足で立てる大人に成長できたようだ。
あの時、自然の中で少年4人で過ごした時間。
あの時見た、不本意に汽車にはねられ亡くなった同世代の子の遺体。
そこから、人の命など生死は紙一重であることや、どんな生い立ちや事情であれ、自分の命はまだ生きている大きな実感をしたのだと思う。
クラスのカーストで言うと下層に入れられてしまうような子達の方が、感受性と可能性にずっと富んでいることはよくある。
孤独と向き合いながら、決めつけられた劣等感を乗り越えた時、その子自身の人生が輝き始めて、誰かの感情を良く汲み取り、守る優しさに繋がると思う。
まだまだ大人に甘えて良い年齢の子供達の心を周りの大人が守ってくれたら良いが、そうではない、むしろ大人が子供を傷付ける環境は、よくある。
同じ境遇、心境の子達で集まるとグレてしまうものだが、誰か1人が一念発起できれば、みんなつられてよくなったりもする。
運良くそのようになれる出会いをし、友達となれたゴーディのお話。
亡き兄の代わりに、遺体の子の代わりに、自分が死ねば良かったと言い出すゴーディだが、止めてくれるクリスがいて人生そのものを救われたと思う。