劇場公開日 1995年1月14日

スウォーズマン 女神復活の章のレビュー・感想・評価

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3.0ジョイ・ウォンの美しさ

2025年11月12日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

本作はツイ・ハーク製作によるシリーズ続編ですが、前作の主人公(ジェット・リー)が登場しないこともあり、物語の中心は完全に“東方不敗という名前”へと移行しています。最も印象的なのは、登場人物のほぼ全員が東方不敗を「演じてしまう」世界が成立しているところです。

ブリジット・リン演じる東方不敗は、前作では死んだはずの存在ですが、本作では“伝説”として独り歩きし、実在よりも記号としての権威のほうが巨大化しています。ジョイ・ウォン演じるシィシィも偽の東方不敗として登場し、霧隠れ雷蔵も実は小柄な人物が“雷蔵という強者”を演じていたという構造になっています。さらに主人公までもが、東方不敗並みの能力を獲得してからは、自身の人格が“権力の役柄”に飲み込まれていく姿が描かれます。

つまり本作では、東方不敗とは一個の人物ではなく、“誰もが演じざるを得ない役柄”として増殖する記号として存在しています。権力や名声、カリスマといった象徴が実体を凌駕し、人物の主体性がその役割に吸収されていく構造が非常に興味深いです。ブリジット・リン自身も途中から“東西方不敗”と名乗り、権力の役を演じるうちに自らの境界を見失っていく姿は、権威の暴走や象徴の肥大化を暗示しているように感じました。

ジョイ・ウォンとの関係は、両性分娘としての東方不敗の美しさと、最盛期のジョイ・ウォンの魅力が並置される場面があり、視覚的な緊張感が生まれています。二人が同じフレームに立つ場面は多くありませんが、その分“視覚としての美”の印象は強く、東方不敗という神話的存在と、人間としてのジョイ・ウォンの魅力の対比が独特の味わいを生んでいます。

アクション面では、前作以上にミニチュアやワイヤーを多用し、とりわけ海戦シーンではスペイン船、日本船、明の船が交錯するなかで、列強に侵圧されていく中国というイメージが象徴的に描かれています。時代考証とは必ずしも整合しませんが、「外からの圧力」と「内部の混乱」が視覚的に結びつけられ、そこに“東方不敗という神話”が利用されていくという構図には説得力があります。

主人公があまり立っていないように見えますが、むしろ本作では“空洞の主人公”だからこそ、最も簡単に東方不敗という役割を上書きされてしまう必然性が感じられます。人物の弱さが、権威の記号に飲み込まれていく様子をよりわかりやすく示しています。

総じて、本作は物語的にはやや混沌としており、シリーズ中でも評価が分かれる作品だと思います。しかし、「権力とは実体ではなく、人が飲み込まれていく“役柄”である」というテーマは非常にユニークで、ブリジット・リンを中心とした“東方不敗の神話が暴走する世界”という視点で鑑賞すると、なかなかに見応えのある一本です。視覚的な美しさと、記号としての権力の恐ろしさが奇妙に混ざり合った、不思議な魅力を持った作品だと感じました。

鑑賞方法: Blu-ray (香港版)

評価: 60点

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