「尊い行いを忘れない」シンドラーのリスト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
尊い行いを忘れない
70~80年代にヒット作を次々放ちながらも、オスカーに縁が無かったスピルバーグ。
そんな彼が遂にオスカーに輝き、名実と共に名匠となった記念碑的な作品であると共に、映画史に永遠に刻まれる名画。
スピルバーグ作品の中でもやはり本作は、特別な作品であり、特別な感情が込められている。
自身もユダヤ人であるスピルバーグ。自身のルーツを描く。
当初は同じユダヤ人であるロマン・ポランスキーが監督予定だったが、辛すぎると断ったのは有名な話。
スピルバーグも撮りながら辛いシーンだらけだっただろう。
しかし、伝える為に、残す為に、よくぞ撮り上げた。
重厚で、ドキュメンタリーのようなリアルさと迫真さに満ちながら、それでいて繊細。
間違いなくスピルバーグのキャリアBESTの演出力。
時に残酷ながらも、美しい、ヤヌス・カミンスキーによる白黒映像。
そして、ジョン・ウィリアムスの名曲。
全てが、奇跡のような素晴らしさ。
最近完全にタフなアクション・スターが定着したリーアム・ニーソンだが、やはり本作が最高の名演。重厚な名演で、『リンカーン』の時叶わなかったスピルバーグとの再タッグを見たい。
背筋も凍る収容所所長のレイフ・ファインズ。この時の冷血な演技が後のヴォルデモートに繋がったのかな、と。
そして、オスカーの計理士で片腕でもあるベン・キングスレーの好助演。
キャスト陣の熱演/名演も素晴らしい。
もう何度も見ているが、何度見ても、胸が苦しい、心が痛いシーンが続く。
ナチスによるユダヤ人強制移住退去。その渦中で行われる殺戮…。
逃げ隠れするユダヤ人たち。さ迷う赤いコートの少女…。
オスカーの工場で働く片腕の無い老ユダヤ人が、ナチスによって無情に射殺される。
朝起きて、ランダムにユダヤ人を射殺する所長は戦慄…。
ある日、灰が降る。その灰は…。
この世の光景とは思えない、ユダヤ人死体の焼却処分…。
その一方、心に迫る、心に響くシーンも多くある。
いきなりラストの名シーン中の名シーンになるが、
身に付けていたバッジ一つで後一人救えたと嗚咽し後悔するオスカー。それまで弱さや脆さを見せなかった彼が初めてそれらを見せ、本当に目頭熱くなる。
あるユダヤ人女性が父母を助けて欲しいと求め、追い返すが、その父母を雇い入れる。
列車にぎゅうぎゅう暑苦しく押し詰められたユダヤ人たちに、せめてもとホースの水を捧ぐ。
作り上げた“生命のリスト”。
最後カラーとなり、オスカーの墓石に石を置く“生命たち”。
ほとんどがオスカーのシーンだが、それもその筈。
本作はシリアスで重厚な作品だが、人一人の尊い行いを描いているのだから。
そもそもオスカーは最初から、人命を助けるつもりは無かった。
全ては金儲けの為。
軍に人脈を作り、軍相手に商売をし、戦争という絶好の機会にたんまり稼ぐ。
ユダヤ人たちの事もただの労働力。
ユダヤ人を雇い入れたのも、低賃金で手っ取り早く使えるからだろう。
しかし…
目の当たりにしたユダヤ人たちの迫害、虐殺…。
この時、彼は何を思ったか。
間違いなく、何かを感じた。
それを機に、ユダヤ人たちを助けようと奔走する…。
表向きは依然、豪腕な実業家。ユダヤ人たちにも面と向かって優しさは見せない。
が、その本心は…。
名前を覚えてるくらい、一人一人を思いやる。
オスカーの心境の変化に深く心打たれる。
また、ナチス相手のビジネス手腕にも天晴れ!
やがて戦争が終わり、ユダヤ人たちは自由の身に。
明暗分かれ、ユダヤ人たちを助ける為に私財を投げうったオスカーは破産。ナチスの党員でもあり、裁かれる身。
オスカーは自分の事を英雄など思っていない。感謝される身でもない。
ユダヤ人たちを使って金儲けを企んだ、ナチスと同じ非道な人物…。
しかし、1100人のユダヤ人を救い、その“生命”の子供たち子孫たちは今、どれほどか。
誰もがシンドラーの名を忘れない。
オスカーがあるシーンで、後の自分について語った台詞がある。
「オスカー・シンドラーか。
あいつの事なら覚えてる。
あいつは凄い事をやった。
誰にも出来ない事を」
当初の目的とは違ったかもしれない。
が、確かに凄い事を、誰にも出来ない事をやったのだ。
ユダヤの教え。
“一人の生命を救う者が世界を変える”
簡単に誰にも出来ないが、誰もがしなければいけない。忘れてはいけない。
その尊い行いを。
近大さん
お仕事大変な中、コメントへの返信有難うございます。
苦悩の歴史を体感として知っているからこそ、真実を伝えたい気持ちが強くなるのでしょうね。
題名は知っていましたが、スピルバーグ監督作との認識はありませんでした。娯楽作に優しさが滲んでいるのは、人間に対する深い想いが有るからなんですね。
近大さん
スピルバーグ監督、丁寧で繊細な描写の作品も撮られているんですね。 俳優さんに多いとの記事を読んだ事がありますが、スピルバーグ監督もユダヤ人なんですね。監督、出演者の皆さんの深い想いが沁みる作品でした。