「円谷英二の訃報がハリーハウゼンに本作を撮らせたのではないでしょうか? 本作は円谷英二の墓前に供える為の作品だったのかも知れません」シンドバッド 黄金の航海 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
円谷英二の訃報がハリーハウゼンに本作を撮らせたのではないでしょうか? 本作は円谷英二の墓前に供える為の作品だったのかも知れません
1973年の英国先行公開
米国と日本は翌1974年の公開です
「シンバッド七回目の航海」は1958年の作品なので、16年もの間隔が開いています
続編という訳ではなく、主人公がシンバッドと言うだけで設定も少し違います
16年も間が開いていると言っても、その間にハリーハウゼンは6本の特撮作品を撮っています
つまり2~3年置きに1本というペースです
一方、太平洋を挟んだライバル円谷英二はどうだったか?
最低、年に2本くらい
怪獣映画と戦争映画が重なれば年2本どころか、1963年などは4本もの特撮作品を撮っていたのです
その円谷英二と比べると、ハリーハウゼンはスローペースかも知れません
ハリーハウゼンのダイナメーションはこのペースが限界であったということです
というより、円谷英二の方が異常な量産ペースなのです
いくら着ぐるみの怪獣と言えども早すぎます
悪く言えば粗製濫造を強いられていたのです
ハリーハウゼンは、本作の前は1969年の「恐竜グワンジ」から5年ぶりの作品です
円谷英二は1970年1月に永眠しました
ハリーハウゼンにとってもその訃報はショックだったのでしょう
それが本作を彼に撮らせた動機であったのではないでしょうか?
本作は円谷英二の墓前に供える為の作品だったのかも知れません
ホムンクルス、動き出す船首像サイレン、ケンタウロス、グリフィン等数々のクリーチャーはどれも素晴らしい!
どれも本作の映像イメージが、その後のロールプレーイングゲームでのそれらの姿形の基礎基本になっています
中でも血と殺戮を好む戦いの女神カーリーは傑作中の傑作です!
奈良興福寺の阿修羅像と同じ6本の腕を持ちますが側面に顔はなく、豊かな乳房があります
その美術的なグレードの高さときたら!
しかもこれが見事に戦い動くのです!
その動きはインドの舞踊のように腰を低くした動きを見せて6本の剣を振るうのです
なんと素晴らしいのでしょう!
女奴隷の右の手のひらにある目の形の刺青
刺青でなく手のひらの中央にある皺がそう見える手相があり、ファティマの目というそうです
これは、イスラム教徒には有名な魔除けとして知られるもの
嫉妬や羨望など妬みにつながる人々のまなざしを「邪視」と呼び、意識的・無意識に関係なく、他人から向けられた邪視には呪いの力があるとされており、それによって生じる不運から身を守ってくれるのが「ファティマの目」だといいます
つまり邪気や邪心を追い払い、身を守ってくれる手相ということです
右手なのは、イスラム教では左手が不浄とされているからです
残念なのは、これから怪光線がでて妖怪の正体を見通す!とかなんてのがないこと
これが見たかった!
もっと女奴隷が活躍すると期待していたのです
これだけが不満です
グインサーガという、ギネスに世界一長い小説とされているファンタジー小説があります
栗本薫という日本の作家の作品です
残念ながら彼女は2009年に他界され、いまは複数のお弟子さんの作家が更に続きを書いて未だに終わらないシリーズです
それに登場するキャラクターや雰囲気は本作の影響を大きく受けていると思います
グインサーガの読者は是非本作をご覧になって下さい
また本作のファンならグインサーガが必ず好きになると思います
さて、次のハリーハウゼンの作品は1977年
またもシンバッドものです
「シンバッド虎の目大冒険」となります
これもまた独立したお話です