「【”僕は6カ月間、ユダヤ人になる。そして、偏見に対し何もしない事が問題なのだ!”今作は、キリスト教徒の男が反ユダヤ主義の実態を経験する様と、差別を無くすには何をすべきかを描いた社会派作品なのである。】」紳士協定 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”僕は6カ月間、ユダヤ人になる。そして、偏見に対し何もしない事が問題なのだ!”今作は、キリスト教徒の男が反ユダヤ主義の実態を経験する様と、差別を無くすには何をすべきかを描いた社会派作品なのである。】
■ライターのフィリップ・スカイラー・グリーン(グレゴリー・ペック)は、妻を亡くした後、息子トミーとニューヨークに来て、週刊誌の編集長ジョンから反ユダヤ主義に関する記事の執筆を依頼される。
彼は悩んだ末、自らユダヤ人”フィル・グリーン”を名乗リ、体験取材を始めるが、その話が広まった途端、周囲の態度が微妙に変わり彼自身も様々な嫌な体験をする。
知り合ったキャシー(ドロシー・マクガイア)とは、惹かれ合うが彼女の何処か煮え切らない態度に、フィリップは苛立つのであった。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
■フィリップがユダヤ人となって経験した嫌な事。知ってしまったユダヤ人差別の実態。
1.母が心臓を悪くしたときに、やって来た医者が笑顔で何気なく”次はユダヤ系の医者に診て貰う方が良いですね。”と言った事。
2.アパートの名入れに”フィル・グリーン”と書いた時に、管理人から拒絶された事。
3.ホテルを予約したのに、”満室です”と言われた事。”ここは非開放ではないな"と念を押したのに。
4.息子のトミーが学校で”汚いユダヤ人”と言われて苛められた事。
5.ユダヤ人秘書のエレイン・ウェールズが、今の職に就くために名前を変えていた事。それを聞いたジョンは直ぐに、採用方針を変える様に人事部長に指示を出すのである。
・そんなフィリップに、第二次世界大戦から戻って来たユダヤ人の友人デイヴ・ゴールドマンからユダヤ人への差別”紳士協定”の実態について実体験を学んでいく過程も上手い。そして、彼は兵役から戻った後にユダヤ人という理由で、仕事や家を持てないでいる実態も、この作品のラストと上手く連動している。
■フィリップは”ユダヤ人に成ったらという事を提案した”キャシーに惹かれて行くが、彼女の煮え切らない態度にモヤモヤして、つい喧嘩してしまう二人。
そんな、キャシーにデイヴ・ゴールドマンが、告げた言葉が素晴しい。
”君は、その差別的な発言をした男の言葉を聞いた時にどうした?”
”不愉快だったわ。けれども、我慢したの。”
”それだよ。偏見に対し、何もしない事が問題なんだ!”
今作では”反ユダヤ主義”をテーマとしているが、このデイヴ・ゴールドマンの言葉は、日本でもいまだに蔓延る性差別、人種差別(日本だと、アイヌ民族だろうか)、宗教差別などなど・・。だが、それを聞いても内心では憤慨しながらも知らないふりをしている事こそが差別を助長していると、今作はメッセージを発信しているのである。
<ラスト、フィリップのユダヤ人の友人デイヴ・ゴールドマンの粋な計らいがスカッとするし、この作品の風合を高めている。
彼は、わざわざフィリップの前でキャシーに電話し、彼女がフィリップを連れて行った家にデイヴの家族を住まわせ、彼の家族が不快な思いをしないように隣に引っ越す事を彼に聞こえる様に話すのである。
それを聞いたフィリップはキャシーを訪ね、強く抱きしめるのである。
今作は、キリスト教徒の男が反ユダヤ主義の実態を経験する様と差別をなくすためには何をすべきかを描いた社会派作品なのである。>