白い恐怖のレビュー・感想・評価
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記憶喪失者を信愛した精神科医師の初志貫徹の揺ぎ無さ
ヒッチコック監督の第二次世界大戦後最初の公開作品で、30歳のイングリッド・バーグマンが精神科医師を演じた異色のサスペンス映画。舞台はバーモンド州のグリーンマナー精神科医院がメインで、新任の病院長が着任するところから始まります。病院と言っても立派な建物にサロン風の談話室があって医師の個室も備わり、研究所を兼ねたような施設です。暴れて危害を加える患者を隔離する病院と違って、重篤でない精神病患者の治療をしています。精神科医療の推進を図る財団による厚い支援が想像できます。紹介される患者の一人は男性を誘惑しながら、いざ言い寄られると拒絶して精神不安定になる若い女性。もう一人は、父を殺したと思い込んで罪責感に苛まれる男性。これがバーグマン演じるコンスタンス・ピーターソン医師と対比され、グレゴリー・ペック演じる医師の実体のヒントになるというプロローグでした。世間一般では時に罪悪感を抱く日常生活であっても、それが神経症レベルや精神病レベルになると罪責感という言葉を用いるのでしょうか。(調べると、日本とドイツに多い病気ということでした)この罪責感の精神分析をジークムント・フロイト(1856年~1939年)が提唱した夢診断によって解決するストーリーの興味深さと殺人事件のサスペンスが合体した、実に真面目なヒッチコック映画になっています。ラブロマンスと精神分析とサスペンスの多面的な面白さを持ったヒッチコック監督の意欲作とも言えます。
フランシス・ビーディングの『エドワーズ博士の家』(1927年)の原作をベン・ヘクトとアンガス・マクファイルが脚色したストーリー展開は、一度最後まで面白く観終えることが出来るのですが、疑問に思えるところもあって完璧ではありません。それは20年在籍したマーチソン院長の後任がグレゴリー・ペック演じるジョン・バランタインでは若すぎて、コンスタンス始め他のベテラン医師たちが疑問に思わないのが不自然であることです。『罪責感の迷宮』という専門書を著した有名医師なら、彼らの一人くらいは知っててもおかしくありません。これはデビュー2年目のペックを売り出すためのキャスティングが影響していると思われます。記憶喪失と罪責感の複雑な精神状態の上に、エドワーズ博士に成り代わって院長を装う役柄は、新人には難しく重責です。翌年の「仔鹿物語」の好演と比べて、正直見劣りするのは仕方ない。しかしこれは、コンスタンスの立場から見れば、恋愛に無関心だった彼女が衝撃の一目惚れに陥る完璧な容貌を持った青年に値する説得力を持っています。(個人的な経験では、中学高校時代で男優の格好良さに最も衝撃を受けたのは、「モロッコ」のゲーリー・クーパーと「仔鹿物語」のグレゴリー・ペックでした)そのペックが画面に向かって迫ってきて、バーグマンの顔のズームアップから眼を閉じるショット、そこにオーバーラップする扉の開放でモンタージュされたヒッチコック監督の分かり易く直接的な表現を可能にしています。この恋に落ちたコンスタンスのファーストカットは、メガネをかけタバコを喫う仕事人間の律義さしか感じません。そんな真面目で理性的な女性が、一転して好きになった男性を信じ治療をしながら愛を育むなんてお話は、映画でしか存在しないでしょう。しかし、この清楚で知的な美しさを持つコンスタンスが、ジョン・バランタインを守り通す女性の強さに変わるのを演じたバーグマンを改めて観て感じるのは、これこそバーグマンらしい役だったのではないかと思えることです。人気絶頂の5年後、イタリア・ネオレアリズモ映画の巨匠ロベルト・ロッセリーニ監督にファンレターを送ったのが切っ掛けとなり、ロッセリーニ作品に出演してダブル不倫の末ハリウッドを去っていったバーグマンを、この映画制作の時誰も想像していなかったでしょう。イングリット・バーグマンの魅力は、貞淑に見える優しさと美しさの親しみやすい女性的なところと、自分に嘘が付けない正直さからくる信念の強さを内に秘めたところでしょう。そして、その淑やかさに演技力が備わった理想的な女優として生涯を生き抜いたことが素晴らしい。この視点から、この映画をみる面白さもあると思います。
ニューヨークのホテルから2人で逃げる後半は、ヒッチコック得意のサスペンス演出が冴えわたり、恩師ブルロフ博士の家でペックが眠れず博士の部屋を訪れるシーンでは、ミクロス・ローザの音楽も効果的です。ナイフを持っで寡黙なペックのジョンにマイケル・チェーホフ演じるブルロフ博士が一方的に語りかけ、怖さと緊張感が支配します。そしてミルクのコップを飲み口からみたアングルで画面を真っ白にするヒッチコックの斬新さ。そして、翌朝コンスタンスがジョンを探して一階に降りて行くと、博士は椅子に倒れる様に寝ている。ここでもミクロス・ローザの音楽が恐怖心を煽ります。真っ白な画面で切り替わった理由も分かるブルロフ博士の分析で観る者を納得させる映画演出の巧さ。警察に通報しようとする博士と精神医学とは関係なく愛しい気持ちにさせるジョンを信じたいコンスタンスが、治療するかどうかで対立する会話がいい。博士を説き伏せて、ジョンの夢を思い出させてメモを取るコンスタンス。このシークエンスの映像の不思議さと不気味さは、デザインしたのがサルバドール・ダリと分かるくらいのシュルレアリスムタッチ。シュルレアリスムがフロイトの精神分析とカール・マルクスの革命思想を基盤とする芸術運動と知ると、この組み合わせは必然だったとも言えます。
最後は何故ジョンをエドワーズ博士と思い込んだかの謎解きをして、再就任したマーチソン院長の失言からコンスタンスが真犯人を探り当てる展開。拳銃を向けられても冷静に心理分析し、マーチソン院長を窮地に追い込むコンスタンスの度胸。マーチソン院長の視点から拳銃を捉えたショットが、銃口をこちら側にして引き金を引いて銃声が鳴る。このような演出が態とらしくなくできるのがヒッチコック監督の良さであり、そこまで自然に持っていく演出の巧さがあります。
推理ものとしての完成度を犠牲にしても、医療的精神分析の切り口と愛するがゆえに信じ見捨てない女性の精神力を讃えたラブロマンスの平明さにこだわったユニークなハリウッド映画。バーグマンの演技とヒッチコック監督の演出を楽しめれば充分満足の作品です。
【”夢分析と夢判断、そして記憶を亡くした男が白い生地の上に付いた黒線を見て慄いた訳。”精神分析医の女医が恋に落ちた記憶喪失の男の無実を晴らすお話。】
ー 多くの人が、フロイトの「夢判断」を読んだ事があるであろう。今では一部批判もあるが、とても面白い著作である。-
■精神病治療院・緑の風の所長が更迭され、新たに就任したハンサムだが、何処か影があるエドワーズ所長。(グレゴリー・ペック)
女性精神分析医のコンスタンス(イングリッド・バーグマン)は彼に恋をするが、彼には白地の上の縞模様を見ると発作を起こす奇病があった。
ある日、自殺未遂の患者のもとに駆けつけたエドワーズ所長は、そのまま気絶してしまう。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・序盤は、良く分からないままに鑑賞続行。
・だが、徐々にエドワーズ所長の真の姿がコンスタンスと彼女の師匠のアレックス所長により分かる過程は面白い。
ー アレックス所長が、剃刀を隠し持ったエドワーズ所長に白い牛乳を与えるシーンはカメラワークを含め、ドキドキする。-
・エドワーズ所長が実は、”ジョン・ブラウン”と言う男である事が徐々に分かる過程。
ー コンスタンスがそんな彼の姿を見て言った一言。”記憶を失っても、性格は変わりません。私は、この人が悪人とは思えないのです。” ウーム、イングリッド・バーグマンに言われたら、男冥利である・・。-
■その後、二転三転するストーリー展開も面白く、見応えるサスペンス作品であると思います。
印象に残った部分
自分が観ていて印象に残っている部分をピックアップしたいと思います。
話しは比較的退屈かもしれませんが、バーグマンの演技は終始助けたい気持ちが伝わり良かったです。精神分析って、夢から実際に解決できる確率がどのくらいか気になったりしました。
・ドア下の手紙を拾った人がカギになるかと思った→沢山の人が居たのにタイミングが遅いやろ! (苦笑)
・ホテルに探偵が雇われてるとは凄い→一流ホテル泊まらないので無知です
・お堅い仕事してる人ほど恋愛すると燃えるのか→勉強し過ぎの反動か
・腹部の右上部が痛む場合「胆嚢」「心臓病」「肺炎」の疑いがある→勉強になった
・タバコ吸いながらエレベーター出るとは...誰よ?
・スキーの映像→仕方ないことだけど隣にくっ付き過ぎ
・牛乳、銃のアップ→絶妙な間
ダリの世界観が印象的な作品
(精神)分析医コンスタンスをイングリッド・バーグマン、恋仲になるジョンをグレゴリー・ペック(「ローマ」と呟くシーンに思わずニヤリ。)が演じる。ハリウッド映画らしい美男美女の競演。
恋に揺れる女性をイングリッド・バーグマンが好演。
結末に意外性が無かった点が惜しまれる。
NHK-BSを録画にて鑑賞 (字幕版)
愛ですね(*^^*)
「こんな気持ちにさせる人が、殺人犯人なんてありえない」
と、イングリットバーグマンの愛した人を想うセリフ。
キレイな顔立ちはもちろん、後ろ姿の美しいこと!ブラウスとスカート、黒いローヒールというシンプルな装いでも、美しいのだわ〜(*'▽'*)
スキーのシーンは、年代を感じさせますね。笑笑
グレゴリーペックも美男子なので、まさしく美男美女のハラハラありのうっとりできる映画でした!
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