「映画は、ナチスによるユダヤ人ホロコーストを、そのサバイバー(生還者...」SHOAH ショア りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
映画は、ナチスによるユダヤ人ホロコーストを、そのサバイバー(生還者...
映画は、ナチスによるユダヤ人ホロコーストを、そのサバイバー(生還者)を中心にかれらの証言と製作当時(1980年前後)の収容所跡などの風景をクロスカットで綴ったもの。
時系列というわけではないけれど、ホロコーストの残虐行為が徐々に明るみに出てくるような形式となっています。
ドキュメンタリー映画の常套手段ともいえる過去のアーカイブ映像も使わず、ナレーションによる説明も入れず、という構成は、すくなくともホロコーストが、どの地域でどの程度あったのか、ぐらいの基礎知識は必要とします。
(本作では、主にポーランド国内でのホロコーストの様子が語られる)
サバイバーたちの多くは、ゾンダーコマンド(強制収容所内の囚人によって組織された特殊労務部隊。当然のことながら、囚人たちが自ら進んで組織したわけではない)要員で、同胞たちの衣服・物品(収容の際に没収される)の整理、シャワー室と称するガス室へ入室する前の散髪、ガス室での処置後の死体の運搬・その他処理など、多種多様に渡っている。
(ゾンダーコマンドの様子はハンガリー映画『サウルの息子』に詳しく描かれている)
同胞たちの死を目の当たりにして、それでも生き延びてきたサバイバーたちの証言は重い。
そして彼らサバイバーたちの証言以外にも、当時もいまもポーランドに暮らす非ユダヤ人たちの証言も描かれ、ユダヤ人に対する憎悪や差別はいまなお連綿と生き続けているさまも描かれます。
また、ナチス側の人々が、当時どのように行動したのかも描かれます(彼らの部分は、証言者の意に反した隠し撮り)。
そこでは、システマティックに、命令に沿って粛々と実行したことが描かれます。
特にシステマティックだったのは、囚人移送の列車運行者の話で、当時、鉄道を経営していたのは一つの会社だけで、囚人に対しても運賃がナチスから支払われ、その運賃に対しての運搬作業だったという。
また、移送用列車の特別編成・運用などは、何を運んで、その何がどうなるのかについては関心の埒外だったことです。
証言と風景のクロスカットだけで構成することで、被害者はもとより、加害者側や傍観者側の心のありようが、時間の風化を受けずに続いている、受け継がれているということを感じました。
加害者側や傍観者側の心のありようは、『関心領域』で描かれたものと同じということでした。
証言者の中で印象的だったのは、
映画冒頭に登場するポーランド民謡を歌わされていたサバイバー、
床屋としてガス室へ入る前の女性たちの髪を切っていたサバイバー、
トレブリンカ強制収容所への貨車を運転していた鉄道員、
豪華な貨車で移送されるユダヤ人たちに「(首を絞める動作をしながら)お前らは、こうなるんだよ」と親切に教えてやっていたんだと語るポーランド人農夫たち、
です。
映像遺産として残すべき重要な作品でしょう。