劇場公開日 1950年9月8日

「優しい人ですらその優しさを無くしてしまう」自転車泥棒 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0優しい人ですらその優しさを無くしてしまう

2025年5月13日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 以前観たときは、仕事道具である自転車を盗まれたら生活が成り立たないのは分かるけど、車でもバイクでも無く、所詮は自転車じゃんと些末な部分が気になり、いまいち気持ちが乗らない映画だった今作。改めて観ると、そこは問題ではない(当たり前だけど)。むしろ自転車が無くなったぐらいで大騒ぎする程貧困のどん底にいるという話で、肝心なのは、戦後の貧困による人間性の喪失を描いている点だ。人は窮地に立たされたときに本性が出るとよく言われる。だが、優しい人ですらその優しさを無くしてしまうのが困窮の状態で、それを本性だとは言えない。

 特に印象に残ったのは、アントニオが自転車を盗んだのを「子供もいるから...」と許されるシーン。許されるのは憐れまれているのも同然。かえって惨めで彼の自尊心を大きく傷つけたんじゃないか。

 だが、世間的に名作と言われるほどには心に響かなかったのが、正直な感想だった。

根岸 圭一
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