「不幸の連鎖から目を逸させない。」自転車泥棒 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
不幸の連鎖から目を逸させない。
◯作品全体
戦後混乱期のイタリア。誰もが余裕のない状況の中で起きる不幸の連鎖を、目線を逸らさず映像に残そうという意思を強く感じる作品だった。
出てくる人物はみんな不幸だ。自転車を盗られたアントニオ、父の惨めな姿を見せられるブルーノはもちろん、アントニオに濡れ衣を着せられた若者や、アントニオに執拗に追い回される老人。その時代をなんとか生きようとしている人たちは、自分たちの余裕の無さから互いに傷つけ合ってしまっている。どこかで彼らが報われる場面が出てくるのだろうと淡い期待を持って見ていたけれど、画面に映し出されるのは慈悲のない現実だけ。
目線を逸らさず、という部分で言うと、画面に映るものがすべてアントニオの視点に近いのが効果的だった。
アントニオの自転車を奪った犯人の表情や、アントニオにつきまとわれる老人がどこに隠れてどこに居るだとか、アントニオの妻は何をしているとか、アントニオ以外の人物の前後が描かれない。そうすることで焦燥感の淵にいるアントニオの感情から離れず、アントニオの感情から目を逸らすことができない。ドキュメンタリーに近い構成になっているのはこの点が一番大きい要素だった。
ラストは人混みの中に消えていくアントニオとブルーノの後ろ姿。アントニオたちが特段不幸なわけではなく、当時のイタリアではありきたりな不幸であることを突きつける。その事実がまた、心に深く突き刺さる。
◯カメラワークとか
・ラストの人混みに消えていく演出はドキュメンタリー作品ではど定番になってる。手垢はついてるけど、いまだに古臭さがない演出だ。
・イタリアの風景があまり美しくないのが逆に良い。公営団地が立ち並ぶ無機質さや狭いアパート。人混みで雑然とした街並み。どうしても美しく撮れてしまうイタリアの街並みをうまく切り取ってる。
・一方で影付けで絵画チックに撮るカットもあった。自転車泥棒だと誤認した若者や群衆から離れるアントニオのカットでは、路面に細く伸びる日向を歩く。肩身の狭さや行き場のなさを強く感じる。
◯その他
・『カラオケ行こ!』で主人公たちが本作を見るシーンがあった。ブルーノを叩くアントニオのシーンで、大人たちは理不尽だと話す主人公たち。そこに合唱部の後輩がサボっている主人公に怒る。後輩が壊れたビデオデッキを操作してしまって逆に怒られ、場面転換後のカットでは膝を抱えてうずくまる。
理不尽なのは主人公たちだろという意味の重ね方と、サッカー場の前で膝を抱えて項垂れるアントニオに重ねるダブルオマージュだった。
・自転車を盗むが捕まってしまった後のアントニオの惨めさはホントすごかったなあ。何も言わずに泣きついてくるブルーノが素晴らしい。父を怒るでも慰めるでもなく、ただ泣いて寄り添ってくる。何も言われないのが一番惨めに見える。