「シチリアの複雑さを鋭く描くネオレアリズモ」シシリーの黒い霧 Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
シチリアの複雑さを鋭く描くネオレアリズモ
フランチェスコ・ロージ監督の出世作。物語は、1950年のサルバトーレ・ジュリアーノという若い男が射殺死体で発見されることから始まる。彼は第二次世界大戦末期からシシリー島の山に潜んで略奪や殺人を犯していた山賊のボスであった。この山賊グループとシチリア独立義勇軍、そしてマフィアと警察の政治的カオスをドキュメンタリータッチで硬質に描いた作品。20代半ばにヴィスコンティの「揺れる大地」で助監督を務めたロージ監督は、ネオレアリズモの継承として、現地シチリアの素人の人達を民衆描写で採用している。ラストはジュリアーノを裏切ったと思われるピショッタの法廷シーンが映画的な盛り上がりを見せ、戦争に翻弄された人間の痛ましさ、社会の在り方をクローズアップして終わる。
マイケル・チミノ監督の「シシリアン」1987年 もサルバトーレ・ジュリアーノを主人公にしたアメリカ映画で、原作者は「ゴットファーザー」のマリオ・プーゾ。ヴィトー・コルレオーネとジュリアーノは実際に交友があったという。ただし、ロージ監督は、ジュリアーノを英雄視していないし、物語の主要人物でも主人公ではない。敢えて彼の言動を明確に描写せず、当時の再現ドキュメントの客観性で対象を見つめ、シチリアの複雑さを映像に刻む。
ヴィスコンティの「山猫」で描かれたイタリア統一まで、イタリアはいくつかの小国に分裂していたから、70年後の混乱にシチリアの独立運動があったことは必然なのかも知れない。シチリア人の先祖が北欧のバイキングぐらいの知識の拙生には、想像できない統治政治の問題が多いのだろう。多くのイタリア映画を観て、日本と共通する四季の気候風土や家族愛の強い人柄など親しみを持つのだが、政治腐敗を描く映画も多い。この家族愛が歪んだ利己主義になると、マフィアが生まれる怖さを秘めている。