「レイドバックなブラック・コメディ」地獄のモーテル 桑畑真珠郎さんの映画レビュー(感想・評価)
レイドバックなブラック・コメディ
カリフォルニア州グレインヴィル郊外でモーテルを営むビンセントとアイダ兄妹。彼らの自慢は、最高の味と評判のベーコンを始めとした薫製肉だが、その材料として使用されていたのは豚肉だけではなく…。
一応カルトな人気を誇るというホラー映画である。しかもカンニバリズムという「タブー」を扱っている。テーマがテーマだけに、シリアスに描くと重苦しくなるので、ブラック・コメディとして作られている。しかし、監督がケヴィン・コナーさんでは…。この人は『地底王国』でコメディタッチはダメなところを暴露していたのに、懲りてなかったのだろうか?結果としてホラーとしてもコメディとしても中途半端な仕上がりに。
全編何だかのんびりと弛緩した、いかにも'70年代風の(公開は'80年だが)レイドバックしたムードのなか物語が展開するので、本来ショッキングかつグロテスクな見せ場となるシーンも迫力に欠ける。「食材」となる旅行者やモーテルの客を、菜園で北京ダックさながら首だけ出して土中に埋めた状態で「栽培」し、収穫する時は首にロープを巻き付けてトラクターで一気に引っこ抜いたり、切断された人体の一部が散乱する調理場が映っても、ほとんど恐怖感はおろか不快感もない。(イタリア製食人映画とは大違い。)
まあ、チェーンソーの本家本元(?)『悪魔のいけにえ2』に先んじること6年前に、チェーンソーによるチャンバラをやっていたクライマックスは、ビンセントを演じたロリー・カルホーンの高笑いの不気味さもあって、ホラーらしい「狂気」は感じさせてはくれるのだが…。(あの豚のマスクはレザーフェイスへのアンチテーゼだったのか?!どうでもいいけど。)
そんな訳でホラーとしてはかなり物足りない。が、いっそコメディとして見れば、抱腹絶倒とまではいかぬまでも、個人的には結構笑わせてくれたことも事実。随所にウケを狙ったと思しきシーンはあるのだが、それが意図的なものか、計算外のものなのか判然としなかったのだが、ラストで瀕死のビンセントが言い残す一言で、確信犯だったのだとようやく理解できた。中でも一番くだらなくて笑えたのは、兄妹の末弟にあたる保安官のブルース(ポール・リンク)がパトカーの中でエロ本を眺めていると、牧師(『アメリカン・グラフィティ』でおなじみの人気DJウルフマン・ジャック)に見つかり没収されてしまう。直後に場面が変わり、モーテルではアイダ(ナンシー・パーソンズ)が全く同じエロ本の同じページを眺めている…。それのどこがおかしい?と言われても困るが、まあ、人それぞれに色んな楽しみ方が出来るあたり、いかにも「カルト映画」らしいと言えるのでは…。決して『悪魔のいけにえ』のような「伝説」にはなれないとしても。