「今の時代にこそ観るべき名作」死刑台のメロディ TSアラヨットさんの映画レビュー(感想・評価)
今の時代にこそ観るべき名作
タイトルとジョーンバエズの歌は知っており、名作であることは聞いていたが、60歳のいままで観る機会がなかった。昨年「モリコーネ 映画が恋した音楽家」を観て感銘を受け、記憶に新しいところで今回の特集上映があり、ぜひ観ておきたいと思った。
採点で満点を付けることはまずないのだが、この作品は別格。何一つ欠点が思いつかない。モリコーネの音楽は言うまでもなく、主演者の演技も皆完璧、過剰な演出はなく、深く心に染みるセリフの数々が盛り込まれている脚本が見事。うわべだけの感動でなく、心の底の方にずしりと響くような、目を背けられないメッセージを突き付けられた。こんな映画体験はなかなか味わえない。あえて欠点らしきものを上げるなら邦題。「死刑台」ではなく「電気椅子」なので、少々違和感がある。
1920年代にアメリカであった冤罪事件を描いており、どう見ても明確な有罪の証拠がないにもかかわらず、実質的にはアナーキストだからという理由で罰せられる。このような理不尽な裁きというものは、形を変えて現代社会でも発生しているように思う。例えば、無実の黒人が警官に殺害され、罪に問われない事件などが後を絶たないし、まさに今年の大統領選挙の焦点のひとつである移民の問題が、この映画の時代から脈々と継続していることを感じる。
と、知ったふうに書き連ねたが、それほどアメリカの現代史に詳しいわけではないので、この作品を観て1920年代の状況を知りたくなった。ときに映画は歴史の教科書にもなるので、いろいろな年代の方に観てほしい、特に今のように世界が混沌としている時代にこそ観るべき作品だと思う。
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