「「悪女もの」大好きな私としてはどうしても外せない一作。」さらば愛しき女よ もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
「悪女もの」大好きな私としてはどうしても外せない一作。
①シャーロット・ランプリングの登場シーンだけ何回も繰り返し観直していたが頭から通して観たのは今回が初めて。②冒頭の気だるい雰囲気と音楽とはまことに『チャイナタウン』を思い出させる。しかしながら、私立探偵もので、フィルム・ノワールで、近い時代背景(『チャイナタウン』は1930年代、本作は1943年…ジョー・ディマジオの活躍を取り上げることで時代感を出している)ながら、ディック・リチャーズとロマン・ボランスキーとの映画監督としての腕の違いで、『チャイナタウン』はアメリカ映画史に残る傑作、本作は私立探偵ものの映画の中ではよく出来ている方、と差がついてしまった。③ロバート・ミッチャムは確かに原作のフィリップ・マーロウに比べれば歳をとりすぎているが、タフさと少しばかりの好色さを漂わせているところはハンフリー・ボガートよりマーロウらしいと言える。また、うらぶれた佇まいが「汚れた街の孤高な探偵」像によく合っている。④シャーロット・ランプリングは初登場シーンから「これはもう悪い女に違いない!」と悪女パワー全開。マーロウの先に立って歩いていくシーンては、マーロウ目線で髪→背中→尻→脚とカメラが舐めるように映していく。マーロウの前に挑発するように脚を組み直し、マーロウとキスしている最中を夫(老人で名士で金持ちで不能、とこれまたお馴染みの設定)に見られても平気で続行。ラストの賭博ボートで正体が明らかになるシーンでは悪女演技が全開。6年間も獄中で自分を想い続けてくれた男の背中に表情一つ変えずに銃弾を3発ぶちこむ。マーロウにも銃口を向けるが、こちらは一足早く腹に1発ぶちこまれて絶命。原作とは違うラストだが、冷静に悪女を撃ち殺すマーロウがクールだ。恐らく彼女の全作品中最も美しいと思う。ただ、悪女演技としてはやや腹芸が足りなかったと思う。まあ、この頃はまだ若かったからね。⑤シルヴィア・マイルズは老残の色気と共に、こちらは若い頃のショーガール(兼コールガール?)の過去を彷彿とさせるような懐の深い演技で、作品に一定の重味を与えている。⑥レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウものは、本筋に枝葉の筋や本筋とは全く関係のないエピソードが絡み合っていて一回読んだだけては全体をすっきり把握出来ないものばかりで(『大いなる眠り』はいまだによく理解できない部分があるので要再読)、『さらば愛しき女よ』はその中でもまだ分かりやすい方とは言え(中心のプロットは暗い過去を隠したい為に過去を知っている人間を次々に消していくというよくある話なので)やはり複雑なプロットなのは変わらない。それに比べて映画の方は枝葉を切っても話は通るように上手く脚色している。⑦ラスト、手元に残った2000ドルの現金を、事件に巻き込まれて殺されてしまった元バンドマンの黒人の妻と幼い息子のところに届けに行こうとする幕切れが、いかにも“汚れた街の孤高のナイト”のマーロウらしい余韻を残す。