劇場公開日 1970年9月12日

「古代ローマを学べる教育的映画(大嘘)」サテリコン ハッカ飴1/2さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0古代ローマを学べる教育的映画(大嘘)

2023年8月15日
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興奮

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難しい

古代ローマ帝国において暴君として知られるネロ・クラウディウスに仕えたペトロニウス(「クォ・ヴァディス」では架空の人物である主人公の叔父と設定)が書いたとされる当時の堕落したローマを描いた風刺小説「サテュリコン」をイタリアを代表する「映像の魔術師」フェデリコ・フェリーニが映画化した作品。当時の文化を学べる学生にもオススメな教育的映画!!
………というのは大嘘で、後期フェリーニの特徴である奇抜な世界観をエログロで濃厚に味付けした作品である。後に実写映画版「ベルサイユのばら」にてジェローデル伯爵を演じる当時新人のマーティン・ポッターの主人公エンコルピオ(エンコルピウス)、彼が愛する少年奴隷ジトーネ(ギトン)、ハイラム・ケラーがギラギラした目と出っ歯気味の歯で魅せる悪友アシルト(アスキュリトス)の3人が古代ローマ世界を探求する。サテュリコンは完全な形で現存していない。その為かほぼオムニバス形式となっている。古典ゆえにセリフも芝居調。建物や衣装、ヘアメイクなど時代考証がどこまで正確かは分からないが、後期においてチネチッタでのセット撮影に拘った監督らしい「なんだかそれっぽい」奇想天外な世界を醸し出す。また日本人としては、サテュリコンの有名な場面である「トリマルキオの饗宴」に登場する無教養な成金の解放奴隷トリマルキオが開く生前葬のシーンで般若心経が流れていることにも注目したい。当然ネイティブによる読経ではないので不自然な響きではあるのだが、それがかえって不思議で奇抜、そして異様な画面にマッチしているのだ。
時代設定は2000年以上昔の話ではあるが、挿入される兵士と未亡人の逸話や途中細身のエンコルピオに"妻"として嫁いでしまう逞しい倒錯的な将軍(古代ローマでは同性愛は一般的だったが年上や身分の高い者が目下の者に対して"受け"に回ることは恥とされた)など現代にも通ずる人間の滑稽さが描かれている。
ただ、スティーブン・スピルバーグに対するジョン・ウィリアムズ、宮崎駿に対する久石譲、ティム・バートンに対するダニー・エルフマン、アルフレッド・ヒッチコックに対するバーナード・ハーマンのようにその音楽でフェリーニとの名コンビを演じてきたニーノ・ロータ(「ゴッドファーザー」が有名)の音楽が今作ではあまり魅力を感じず、その点で減点とした。
いい構成の文章ではないが、胡乱な世界に引っ張られたと思ってご容赦願う(鑑賞するのは3回目)。

ハッカ飴1/2