劇場公開日 1970年9月12日

「文明の一皮を剥ぐと、どのような世界になるのか」サテリコン あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0文明の一皮を剥ぐと、どのような世界になるのか

2019年3月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

オリジナルの予告編にこうあった
ローマ、ビフォーキリスト、アフターフェリーニ
正に本作を一言で言えばこうなる
かといってキリスト教を賞揚する作品でも決してない

文明の一皮を剥ぐと、どのような世界になるのか
それをこれでもかと露悪的にフェリーニには描く
弱肉強食の暴力が支配する世界、ことに道徳的な退廃はほじくり出すかの様に執拗に描写を重ねる

冒頭から主人公たる美貌のバイセクシャルな青年が、美少年を競っての痴話喧嘩の話で始まる

だから、それだけで延々と終盤迄続くのかと、ノンケの自分はいささか辟易したのだがさにあらん、フェリーニの狙いはそこには在らず上記の世界と現代の世界との対比にある

なので中盤以降、監督の意図が見えて来るにしたがって俄然面白くなってくる

ロケや海上のシーンもあるが、基本舞台劇的な構成だ
考古学的に考証はどれ程正しいのかは不明だが、多分そうだったろうとういう程の説得力はある

同性愛、小児愛、乱交の酒池肉林
夫の死に悲しむ余りに食事もとらず泣き続ける未亡人は逞しい兵士の慰めにすぐに体を許し果ては夫の遺体も兵士の落ち度を隠す為に差し出す
果ては食人シーンまでも
文明の一皮を剥ぎ取ってしまえば人間社会の本当の姿とはこれだと、フェリーニは繰り返し見せつける

それはコナンザグレートやマッドマックスの世界に近い
フェリーニは十年から二十年は早くその世界観私達に提示したのだ

製作は1969年だけに、ヒッピー的サイケデリック的な演出がなされている
キリスト教以前の邪教が支配していることを示すために般若心経がつかわれたり、ガムランがBGMに使われていたりする
もちろん仏教を邪教として揶揄する目的はフェリーニにはなくただ雰囲気として利用しているに過ぎにない
首の取れたふくよかな豊穣神の石像の下で、貴婦人の相手をして性的不能者になるシーンや、空に向かって高く起立する三角錘の石柱など性的な暗喩は無数に使われるが、般若心経のようにムード的な演出に過ぎない

衣装は東洋的な風味が施されてあるシーンがあり、これはスターウォーズの最初の三部作以降の作品の衣装に影響を与えていたように思われる

ラストシーンは主人公達の姿が壁画となり二千年後の現代に残る様で終る
そこには遺跡に吹きわたる荒涼たる風の声だけが聞こえるのみだ

つまり現代のキリスト教による道徳観やヒューマニティ観が世界を支配している現代といえど、一皮剥げばたちまちこうなるのだ
いや実はもうそうであってそうではないと装っているだけなのだ
そうフェリーニは主張している
そう自分には感じられた

美しい映像が随所にあり、美しい青年年達の顔と裸体は常時写されている
睡魔が訪れることは無かった

あき240